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 バドミントンの大会は、個人戦と団体戦が存在する。個人戦は、シングルス4人と、とダブルス3組が各校出場してトーナメントが行われる。シングルスに出場した選手がダブルスに出場することも可能である。

 

 団体戦は、学校同士の戦いである。ダブルス2試合、シングルス3試合の計5試合の中で、先に3勝した学校が勝利になる。先にダブルスが2試合行われ、第1シングルス、第2、第3と続く。また、ダブルスの試合に出た人が、第2または第3シングルスと重複することも可能であり、実質団体戦に出られるのはダブルス2組とシングルスの1人の計5人である。


 私は現在、シングルスでは上から5番目。ダブルスは3番目の位置にいた。個人戦には出場できても、団体戦には一歩届かない。ただ単純にシングルスだけが強くても上位5人がそのまま団体戦に出られるわけではない。なんとも救われないなとも思っていた。


 今までは2グループで1位になっても1グループとの入れ替え戦は行われて来なかったが、今回は状況が違う。全てを出し切るラストチャンスだった。



 試合中に何度か桃と顔を合わせることがあった。普段は誰とでも仲良くしているイメージがあったため、こんなあからさまに顔が引きつることがあるのかと驚いた。「点を取られても大丈夫」「頑張ろう」と励ますため、私を気遣ってのことだと後日教えてくれたが、わざと笑顔を作っていたことは何も気にしていなかった。勝てればそれでいいと思っていたから。


 誰にも負けられない、自分自身が強くならなければという意識的な行動や、背中を押してくれる言葉もあり、なんとかシングルスとダブルス、個人戦の枠を勝ち取ることができた。


 ただ、団体戦のレギュラーは掴み取ることが出来なかった。悔しいが、受け入れるしかない。それでも1グループの常連から個人戦の枠を奪い取ったことは私にとっては大きかった。








 私の学校の部は、それなりに強いとは思っている。団体戦では大会ベスト8や4などにも何度か入ったことがあった。そこに出場したメンバーが、今回も変わらず試合に出場する。これを仕方ないと思うか悔しいと思うかの違いは大きい。


 最後の校内戦が終わって1週間が経った。大会まであと2週間しかなく、他校の代表に挑むために技術をさらに磨く。試合に出場するメンバーがコートに入る時間はさらに長くなった。出られないメンバーは、コート脇でひたすらメニューをこなしている。やはりそれは感謝すべきところだと思う。コーチやキャプテンたちも、練習終わりの最後の集合では必ず感謝を述べ、「みんなで戦っていることを忘れずに」と話していた。


 練習が終わり1人になると、ラジオを流すのはもはやルーティンになっていた。昨日の夜投稿されたものだがまだ全ては聴けていなかった。続きから再生すると、映画に出演することについて話されていた。


「俺とナナさんが主人公だってぇ」

「やばいよね」

「ほんとだよ。お前ら何してんだ」

「いっくんもだいぶ活躍してたじゃん」


 映画館などで貼られるためのポスターや公式サイトも制作され、その画像も最近公開された。それについても触れられていた。


「これさぁ、タイトルとストーリー一致してなくね?」

「いい意味でね」

「なんでここからこんな壮大な内容になるんだろ〜」

「ね。てかタイトルとポスターが合わなすぎて(笑)」


 ポスター中央には満席になった東京フォーカスホールのステージに、空さんとナナさんの後ろ姿があり、その上部には少し大きめに一ノ瀬さんとSEDOさんの写真。そして下の方に私やゆかりちゃんをはじめとするメインキャストの写真があった。出演者の欄にも、しっかり私たちの名前が載っている。


 ラジオに夢中になっていると、駅についた。改札を通り、目的の乗り場へ向かう。電車を待っていると、反対のホームに、同じ部のメンバーが5人ほどいた。そして大人が1人、コーチだった。それを確認した直後に反対のホームに電車が入る。彼らはそれに乗ると、どこかへ行ってしまったが、特に気にも留めずに家に帰った。


 

 

 SNSは相変わらず私とゆかりちゃんにに冷たかった。有名な女優を使えばいいのに。JK要らない。普通に馴れ馴れしいなど、これは何を言っても火に油を注ぐことになるような気がした。SNSは1年前に削除済みであり、周りの友達と写真を撮ることはほとんどないし、もし撮ったものがSNSに載っていたとしても鍵垢の人がほとんどのため、私について特定されたりという心配はあまりしていなかった。


 一方でゆかりちゃんはどうなのだろう。彼女はSNSのアカウントを持っていた。フォロワー数もかなり存在している。彼女は元々ファンも多いため、100パーセント中傷などでコメント欄が埋まることはないと考えていた。


 興味本位でゆかりちゃんのSNSを検索してみた。『相田ゆかり』と本名で活動している彼女は、モデルとしての活動記録や自分が載った雑誌についての宣伝などがほとんどだった。その中には、去年の夏に私と一緒に食べたクレープの写真もあった。


 アクセスしてすぐに、異変に気がついた。まず、フォロワーがここ数週間で今までの倍近くに増えていたこと。そして、映画出演の告知をした投稿には、大量のコメントがついていた。


 その投稿の内容は、『メンヘラジオ the Movie』に、『咲』役として出演します!と、至ってシンプルな内容だった。そしてポスターと同じ画像と、撮影中に撮ったの思われるゆかりちゃん単体の写真、口元を隠したナナさんと思いっきりピースをしていたSEDOさんとの3ショット画像が添付されていた。おそらく撮影の許可は得ているとは思うが、最後の写真が大量コメントのきっかけになったことは予想がついた。


 2日前にこれらは投稿されていたが、それ以降の更新は全くなかった。コメントを確認してみると、その内容は、私の予想とは大きく異なった。批判ではないが、これは果たして擁護なのだろうか。


『ゆかりちゃんは間違ってないよ!仕方ないよね!』

『いろんな意見あるけど、気にしちゃダメだよ!』

『ゆかりは何にも悪くないからね!』


 炎上していたものが鎮火された、そんな印象だった。画面をスライドしても、批判コメントは圧倒的に少なかった。ゆかりちゃんが削除したのか、ゆかりちゃんのファンが通報したのか、それとも本当にバッシングはなかったのか、真実は分からない。しかしゆかりちゃんでもこのような事態になっていたのだから、私がもし同じようなことをしたら一体どうなっていただろう。生きているだけで叩かれそうだ。


 


 過去の投稿などを眺めていると、メッセージが届いた。そのアプリを起動すると、部のキャプテンからだった。これからの練習日程などの連絡が、バドミントン部のグループに送られていた。これだけならば無視できたが、この数秒後に4人が「了解」と反応していた。普段は返信を送ることは行われていなかったため、4人も返事を返していることに疑問を持った。「返事してください」と言っていたのだろうか。確認をするためにメッセージアプリを開いた。


 そして、異変の正体に気づくことができた。


 まず、連絡をしたキャプテンと、了解と返事をした4人のアイコンが全く同じだった。皿に盛られたお寿司。みんなで食べに行ったのかもしれない。しかし、この5人の共通点は、団体戦に出場するメンバーであること。そして今日の帰り道でそのメンバーがどこかへ行くところを見ていること。ピースが全て繋がった。学校、チーム一丸となって戦うとあれほど言っていた人が、限られたメンバーだけを集めて、しかも大会の直前にアイコンをそのメンバーだけ同じものに変えている。さらにそれを見せびらかすかのように返信を行なっている。試合に出られない人達を煽る行為としか思えなかった。


 その5人の中には桃も含まれていた。断れない状況だったのかもしれないが、せめてこれらの行為がおかしいということには気づいて欲しかった。食べに行ったことはまだしも、アイコンを変えることまで強制されたとは思えない。例えされたとしても、本人の意思がない限り変更はできないのだから、しないという選択肢もあったはずだ。


 優越感に浸っているのかもしれない。下を見てモチベーションを保っているのかもしれない。だとしてもそれは1人でこっそりとやるべきだ。




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