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「・・・んぇ?なんて?」
「いやだから!!出演するんですよ!!私たちも!!フォーカスに!!!」
「・・・はい?」
「だから!!しゅつえ・・・ふふっ・・・聞いてください!!真面目に話してんのに!!」
「いや笑ってるやん。笑ったやんな?」
アホ丸出しの会話が繰り広げられているが、その中身は決して笑えるものではない。映画の告知から1週間後に、ゆかりちゃんから突然電話がかかってきた。
1万人規模のステージである東京フォーカスホールでイベントを行うため、ゲストとして出演してほしいと、どうやら私とゆかりちゃんに声がかかったらしかった。
確かに以前お世話になったスタッフさんからメールが来ていたが、読もうとしたタイミングで電話がかかってきた。
笑っているのか怒っているのか、私のせいで情緒不安定になった彼女に、詳細の説明を求めた。
「えっと、来年の春に、イベントするらしいです!内容はまだ決まってないんですけど、今回私たちや空さんたち4人以外にも、何人か集まるみたいですよ!で、予定空いてるか確認したいそうです!」
今から約1年後の話だから、高校3年生で進路が決まっている時期か、あるいはすでにその進路を歩き出している時期だ。
「それ、何月?」
「予定では、3月だそうです!」
「それやったら、多分大丈夫!」
「ほんとですか!!やったー!!」
それやったら。と言ったのは、私は高校いっぱいだ劇団を辞める予定だったからだ。元々劇団に入りたいと言ったのは小学6年生のときで、家族はあまり賛成してくれなかった。それでも、しつこく粘って、「中学生の間だけやで」と許可してくれた。しかし、大きな活躍ができなくて悔しかった私は、中学3年生のときにもう一度粘った。学業もちゃんとするという条件で、高校でも許してくれた。もう何言ってもこれ以上は伸ばさへん、という一言付きで。
ゆかりちゃんとの電話を切り、1人考える。最後の最後に、大好きな活動者たちと仕事ができて終われるのは本当に幸せだと思った。精一杯頑張らなければいけないという気持ちより、頑張らせてほしいという気持ちの方が強かった。
3年生のクラスは、お世辞にも公平なクラス替えとは思えないほど、リーダー格の人物たちで固まっていた。
他のクラスと合わせれば、陽キャ率は平均なんだと思う。でも、私のクラスは陽陰の差がすごい。しかし、そのおかげもあり、何とか私でも入れそうなグループが存在した。
あと1年なのかもう1年なのか分からない。気づけば高校生活にも終わりが近づいていることに驚きを隠せない。4月に入った途端担任は「受験勉強」という言葉繰り返していたが、おそらくほとんどの生徒に危機感をもたらすことはないだろう。それよりも今は部活のことで頭がいっぱいだ。
あれからは、何事もなかったように振る舞いながら練習を続けていた。仲間割れをあからさまにしていたのならば顧問たちも怒るに決まっている。それは向こうも避けたかったようだ。しかし、いくら大勢から反対されても、100パーセント自分が間違っているとは思えなかった。もう自分には味方がいないという大きなプレッシャーを背負い戦い、時には周囲に強く当たってしまうこともあった。それでも、引退が近いというタイミングもあってか、大人たちにはいつも以上に頑張っているくらいにしか思っていないのだろう。何か注意されたりということは一切なかった。
変化したこともあった。ダブルスのペアが、桃に戻され、練習も1グループで行うことが増えた。もしかしたら私と美里のことを誰かが大人に言ったのかもしれない。美里のことは嫌いじゃないと言っても信じてもらえなかった。それでも、1グループに私がいるということは、努力を続けた結果を目に見えて表してくれるありがたいものだった。
窓から入ってくる風が心地良い。外を見ると風によって桜が散り、ソメイヨシノに至っては緑色の葉が点々と存在している。「前田ちゃんは頑張ってるんだよ」「りこさんの努力は誰だってできることじゃないです」映画撮影を行った去年の8月に、共演した空さんとゆかりちゃんに言われたことをふと思い出していた。京都に戻ってからは本当に精神的にも追い込んだ。上に勝ちたくても勝てない。技術練習もなかなか指導される機会がない。去年の夏に背中を押してくれた言葉たちを否定することはどうしてもしたくなかったが、それはあくまで私の事情であり、他の部員が知る術もない。
しかし、まだこれで終わりではない。3年生にとって最後の大会に出場するメンバーを選ぶ校内戦がもう直ぐ始まる。そこで選ばれなければ、本当に努力が報われたとは言えないだろう。気を引き締めて挑もうと思う。もう、私よりあの子は上だから・・・という先入観にとらわれている暇はない。