第32話「六日後の世界」
その後、街から冒険者達の応援が到着すると、動けない僕達は彼らによって運ばれた。
ソーサーズランドからの応援が事態が解決するまでに遅れてしまったのには、いくつかの理由があった。
まずモノリスに行くのに街の外まで直接つなぐ転移の門が魔獣によって破壊されたせいで、移動の手段が潰されていた。
また、街全体が今までになく混乱していたので、そもそも街の人間が事態に気づき魔獣の元に駆け付けようとした頃には、僕達ですべてを終わらせた後だったのだ。
僕が目を覚ますと、そこは見たことのある場所だと分かった。しかし何処なのかはよくはっきりしない。
「 生きてた…………な」
体にかけてあった布団をどかすと僕はゆっくりと起き上がった。
「やっと、起きたんだ …おそいってのッ (ニシ」
赤毛の髪の青年が僕が起き上がると同時に部屋に入って来た。
「マイン……」
マインはいつもの冒険者の恰好ではなく白と黒のきちっとした服を身に着けていた。しかし右手の見慣れない革の手袋がとても不自然だと思った。
見たところあの戦いの大きな怪我は、かなり癒えているようだったので僕は安心した。
「その恰好……」
「これかい? マルマルが店を手伝えって言うからさ? あの店に珍しく客が来てるんだよ」
そういうマインの服からは、たしかにコーヒーの良い香りがしてきた。
マインは僕の向かいにある机の椅子に腰かけた。
「レイン お前、六日も眠ったままだったんだぜ?」
「えっ 6日! ……みんな、無事……なのか? あれから街はどうなった?」
どうやらここが、前にミーシャが寝泊まりに使った綺麗岩のおしゃべり亭の一室のようだということに、そのとき気が付いた。
「ミーシャちゃんならギルドにいるはずだぜ たまにここでサラの手伝いをしてる。 あとイカさんがかなり重傷だったんだけど、それもそろそろ治りそうだって」
「そうか…」
僕は安堵した。しかしマインは表情を曇らせるとこう言った。
「けどな…… ちょっと街で問題が起きてんだよ」
「問題だって? ……魔獣の揺れの被害が思ったより大きかったとかかな?」
地震などは今まで起きたことが無かったので、街を襲ったあの大きな揺れの被害は相当あるはずだ。
もしかしてオーダーなどの大事な施設なども壊れてしまったのかもしれない、と僕は思った。
「いやいや 街はもうだいぶ復旧してるんだ 創造系の能力持ちの冒険者達がみんな協力してくれたから、壊れた建物もほぼ修復されたんだ 俺の家も昨日直してもらったし」
「ん……それはよかったな」
僕の家(マインの家)がなくなるのは困る。いつまでもサラの店の部屋を借りてるわけにもいかないし、なるべく早めにここを出よう。
「ところでさ、さっきから外が騒がしいと思うんだけど?」
「ああ……」
僕は話をしている途中で、窓の外から何やら複数の人の声などが聞こえてくる事に気が付いた。それもどうやら一人や二人でなく、もっと大勢のようだった。
「実は問題っていうのはあれの事なんだ。ソーサーズランドが、あの大きな魔獣に襲われかけた事を知った街の奴らの一部がオーダーに押しかけてんだ」
「はあっ? どういうことだよ? 何でそんなことになってるんだよ」
僕が尋ねるとマインははじめから説明をした。
「オーダーはこの街の心臓部にあたる組織だろ? そしてその頂点のギドという立場にいるあの竜ババが、自分の能力で今までいろんなことを予知してきたわけだ」
「……ああ」
ここまで聞くと僕は、この後にマインが言う事になんとなく気づいてしまった。
「今回に限ってはそれが無かったんだ。街全体が危険にさらされるところだった事態にもかかわらずな だからなんで予知を知らせなかったんだって言ってるわけさ」
「ん……そうか けど確かに、何んでテラは予知を伝えなかったんだろ?」
テラの能力はほぼ確実という事だ。伝えればもっと早くに対策が練れたかもしれないのに。
「さあなぁ 竜ババも歳くってボケてきたんじゃね? この前だってレインの予知はずしてただろ」
「ああ、ギア使いと戦うなって奴か ………ていうか、もはやあのばあさんは歳くってボケるて次元の年齢じゃないだろっ」
そのとき、この部屋を訪ねてくるものが現れた。
ギルドの制服に身を包んんだ彼は、律儀に部屋の前でお辞儀をしてから入って来た。
「失礼します 御二人をギルドマスターがお呼びです。どうか今すぐ、私についてきてください」
「ええ?! レインは今やっと目覚めたばっかなんだぜ? 何でこんな急に……」
「申し訳ありません ここでは言えません。それと内密な話なので面会のことも他言無用でお願いします」
「はあ??」
はあ?? と言いたくなるマインの気持ちも分かる。第一下っ端冒険者の僕はギルドマスターになんて会ったことがない。
だが何か緊急を要するということは彼の表情から分かった。
「僕は行くよ……マイン、悪いけど肩かしてくれ」
「あ、おお……」
僕はベットから起き上がると、歩行のための補助器具を使いながらゆっくりと立ち上がった。
やっぱりまだ身体中がズタボロで歩くのもなんとかこなしている状態だった。
「では、行きましょう」
「……ああ」
僕たちは彼の後をついてこっそりと酒場の外に出ると、ギルドカップへの道を登っていった。




