第25話「私は浪漫武器」
僕がなんとかして怪物の注意をそらすと、その間にマインは怪物から逃れる事が出来た。そして合流した後、二人で一旦怪物から離れる事にした。
怪物は周囲の大岩を破壊しながらソーサーズランドに向かって真っすぐ進んでいった。なので僕達は二人で並走して、怪物から離れすぎないよう後をついていった。
「こいつは俺たちのことなんて、全く気にかけていないようだぜ。今は後ろから後をつけてるだけだし、もしかして助けはいらなかったかい?」
「いや、マインが来てくれて助かったよ。さっきまでずっとしつこく狙われてて、正直体力が限界だったんだ」
「そうか、そりゃ良かったな シシッ ……それにしても、こいつはどこに向かってるんだろなー」
「……恐らく、ソーサーズランドだと思う」
「え、それヤバいんじゃね?」
マインは目の前で這いながら前進する怪物の全体を見回すように確認した。
「イカさんから聞いてだけど、こんな大きい魔獣がぶつかったら、あんな街ひとたまりもないぜ」
「ああ、だからその前に食い止めないと……ん、今イカ・フライから聞いたって言ったか?」
僕の困惑をよそに、けろりとした顔でマインは言う。
「なんか潰されるギリギリのところで門を通れたんだってさ。今はソーサーズランドの中でミーシャちゃんの治療を受けているところだろうぜ」
「ミーシャが治療を?……イカフライは怪我の具合はどの程度なんだ」
僕がそう聞くとマインは一瞬顔をしかめた。
「ああ、今はまだ動けないだろけど、とりあえず彼女に任せておけば大丈夫だろうぜ。俺がこっちに来る前にも既に話せるぐらいには回復してたしな」
「そっか。 でも、生きてるのか……」
怪我の具合は心配だが、僕は最初彼を死んでしまったと思っていたのだ。そう考えればそれさえも吉報に思われた。僕はそれにほっとした。あっちは心配ないだろう。
「それでさ、どーするんだよ。何か策は無いのか?」
策などと言うものは無かったが、僕には気になっていた事があった。
「うーん……そういえば、僕がこの怪物に斬りかかろうとしたときに、怪物が急に方向を変えたのはマインが現れたからってことでいいのかな」
「あ~ あのときはな、レインが狙われてる内に零剣で仕留めてやろうと思ったんだけど、なんか気づかれちゃってさぁ! てわけ」
マインは腰に携えたレイピアをポンと叩いてみせながらそう言った。このレイピアには柄の部分に衝撃波を発生させる零具がコアとして取り付けられていて遠距離攻撃が可能となっていた。
ていうかこいつ、僕を囮にしようとしてたのか……。マインが怪物を倒そうとするレベルまで霊力の出力を上げれば僕も必然と巻き込まれてしまう。 ……わざとだな。霊気の玉を放った後のマインの高笑いが容易に想像できる。
僕はさっきマインが助けに来てくれて感謝してしまったことを後悔した。
僕は彼をじろっと一睨みしてから話をつづけた。
「…………つまりこの怪物は、お前の殺気に反応したってことか?」
「いや、殺気は出してないかな…………」
「僕も一緒に狙ってたからね?」
「…………………………」
~~~~
「――となると怪物はマインの強い霊力に反応したってことなのか」
「そうらしいな。……ところで怪物て言いにくくない? そうだな、毛お化けなんてどうだい?」
「……僕、お化け苦手なんだけど」
僕はまたまた顔をしかめる。
「あ、そうだった。まあいいじゃんいいじゃん。 でさ、毛お化けは霊力に反応したとして、それが一体何なんだ?」
「……あいつの体に攻撃しても、体毛が邪魔してダメージが入らなかったんだよ。だから毛の生えていない顔になら攻撃が通るかもしれないと思ったんだけど、腕が邪魔して攻撃する隙が無かったもしかしたらもしかしたら上手く隙を作れるんじゃないかって思って」
「なるほどー けどレイン。まだ霊力零具での攻撃は、試してないんじゃねーの?」
「あ……」
そこで僕達は立ち止まった。前方を進む毛お化け(仮)がまだこちらに気づいて無いことを確認すると、マインは腰のレイピアを取り出しそれの剣先を射出口のようにしてライフルのように構えた。
「まあ、あの程度の魔獣。俺にかかればちょちょいのチョイさ」
……キュィ――――ン…………
レイピアの先端には霊力が一つの大きな球形の弾を形づくりながらどんどんと集まっていった。これならあの怪物も倒す事が出来るかもしれない。
マインの零剣に集まる霊力に気が付き怪物は足を止めこちらを振り返った。しかしそのときには零剣には十分な量の霊力が集まっていた。
「マイン、外すなよ!」
「ふふふ 俺に任せとけ!」
――ピュ―――――……ン――
霊気の弾は毛お化けに向かってまるで吸い込まれるように真っすぐ飛んでいった。そして弾はそのまま毛お化けの頭部へ直撃した。
「キュおおおおぉぉおっ」
その直後、毛お化けから聞いた事もないような醜い叫び声が聞こえた。僕は思わず耳を塞ぐ。怪物の方をみるが砂が大量に舞って姿は見えない。
しかしこの苦しそうな叫び声から確実にダメージは与えられたはずだ。
「……やったか?」
「いや……どうなんだろうな 見ろよ、まだ全然元気だ」
砂煙が晴れて怪物の姿が見えてくると、その体にはどこにも目立った傷らしいものは付いていなかった。ただ霊気の弾が当たった所の毛が僅かばかり剥げていたが、肝心の本体は傷ついてはおらず、さっきの叫びはどうやら驚いて出していたようだ。
「これじゃあ、何発撃ったって同じだな」
「……いや、待て。さっきの攻撃で体毛が抜け落ちている。もっと肌が露出するまで毛を剥がすことが出来れば攻撃も通るようになるかもしれない……」
「それは無理だなー。さっきの霊気弾も結構全力で撃ったんだぜ。何発も撃てるもんじゃない」
「うーん…………」
そのうち怪物は方向を変えると再びソーサーズランドへ向かって歩みを始めた。このまま進めば、こいつが街にぶつかるまで後10分も無いだろう。
「もう時間もないし……こうなったら無茶苦茶にでも攻撃してみるかっ」
そういってマインは再びレイピアを取り出した。
何かないか。きっと無策で突っ込んでもまたあの体毛に阻まれるだけだ。僕はこの場の打開策を見出す為必死で考えた。腕を組み、目を閉じて集中してみた。しかし何も思い浮かばない。
「いくぞレイン」
「マイン、待ってく……」
僕は今にも飛び出そうとするマインを制止するため顔を上げマインの肩を掴んだ。そのとき僕の目にあるものが目に入った。
「……そうだ、閃いた! 僕に作戦がある。マイン協力してくれないか?」
「ああっ もちろんだ」