レムリアルギア 最弱無能の神滅譚

第24話「ソーサーズランド大火線」

　毛玉から腕が生えたようなこの怪物の胴体から繰り出される攻撃には、岩をも砕く破壊力があった。だから霊力(テレス)で防御することができない僕には、攻撃が掠っただけでも大ダメージになってしまう。

　しかし動きは単調だ。僕は何度か反撃の隙を見つけては少しずつ攻めようとしていた。

　だがあまり効果は見られなかった。

　真上から振り下ろされる腕を躱し懐にもぐりみ攻撃を仕掛けても、身体を覆っている大量の毛が邪魔をして多少斬りこんだくらいじゃびくもしないのだ。

　それどころか斬り裂いた瞬間、その場所から何かの粉末のような物が大量に飛び出てきたので、僕はそれを吸い込まないように急いで退散するので精一杯だった。

　もしこれが毒だったとして、誰も助けを期待できない状況で動けなくなってしまったとしたら、一巻の終わりだ。

「はぁッ　はぁッ………」

　僕は少し立ち止まり、呼吸を整えた。

　このままではいつか体力が底を尽き、イカフライのように踏みつぶされてしまうのが目に見えている。

　でも怪物は僕をいつまでも休ませてはくれない。すぐに僕に向かってその二本の腕を使い、ごうごうと音を立てて這いながら物凄い勢いで突進してくる。

　仕方なく杖のように地面に突き刺していた剣を抜くと、再び僕は怪物に向かってそれを構えた。

　ふと僕はその剣に目線を落とした。

　これはギルドの長（ギド）のテラからもらった剣だが、彼女によれば竜族の秘宝の一つという事らしい。

　もらった時はなんでも斬れそうな良い剣だと思ったのだけど、使ってみると普通の剣より少し上質という程度だった。

　それに使い慣れてない変わった形の刀身だったから、少し振るだけで無駄に疲れてしまい、この剣の活躍は少ない。

　怪物は大きな腕を振り上げるとそれを僕に向けて叩きつけてきた。しかしこう何度も見せられれば猿でも躱し方を覚えるものだ。

「ハッ！」

　僕は真横に跳んでよけた。

　だが今の怪物の放った攻撃は少しだけ破壊力が抑えられていたので、間髪入れずに次の攻撃がやってくるはずだ、という予測があった。

　案の定、怪物は地面に振り下ろした腕をそのまま左に振り払い僕に攻撃してきた。僕はまたそれを、今度は後ろに跳びのき躱す。

「はあッ　フッ　　　……危ねー……」

　時間と共に僕の体力はどんどんなくなっていった。実際いまのもギリギリでよけていたというところだった。

　僕の額には冷や汗が流れた。

　そのとき、僕の視界にソーサーズランドのある場所の岩山が映った。

　どうやらこの怪物と戦っている内にこんなとこまで移動してしまったようだ。

　そして僕はふとあることに気づくと怪物の方を振り返った。……やっぱりだ。この魔獣の進路の先にはソーサーズランドがあった。そして少しずつ街へと近づいていた。

　もしかしてこの怪物は最初からソーサーズランドに向かって進んでいたのかもしれない。僕は思った。

　これ以上こいつを街に近づかせるわけにはいかない。

　もしあの巨体が岩山にぶつかりでもしたら、中の街は全部潰れて無くなってしまうだろう。どうにかしてここで食い止めなくちゃ……。

　そのうち怪物はまた同じように二本の腕を使って突進の構えをみせた。僕は今のところ攻撃から逃れる事だけはできているが、あの突進を食い止める手段を持ってはいない。このままではいつか怪物は街へとたどり着いてしまうだろう。

「このままじゃ埒が明かない　だけど、僕にできることは、無い……」

　僕はまだ体力のある内にこの場から逃げることも考えた。

　もし逃げれば街は確実に破壊されてしまうだろうが、どちらにしろ勝てない戦いだ。つぶされて死ぬよりまし………

　……――その言葉で、僕の脳裏には目の前で怪物によって跡形もなく潰されたイカフライの姿が思い出された。

　イカフライにはまだこの街に慣れないとき、いつも留守にしているマインの代わりに色々世話になった恩があった。

「しょうがない……　敵討ちでもするか」

　僕はそう言うと勇気の牙(モーツブリンガー)を怪物に向かてブンと差した。

（しかし勢いよく言ってみたものの、レインはこの後すぐにイカフライが実は生きていることをを知る。）

　――僕の挑発に乗ったわけではないのだろうが、怪物の迫ってくる勢いが今までよりも強まった気がした。

「毛の生えてない部分のあの人面か所なら、もしかしたらダメージを与えられるかもしれない」

　しかしそこに攻撃を当てるには正面から猛烈な勢いで迫っている怪物の二つの巨大な腕をかいくぐって行く必要があった。失敗したら後はないだろう。僕は意を決して怪物に向かって突っ込んでいった。

　だが僕が怪物の目の前というところまで迫った時に、怪物は急に方向を変えた。そして明後日の方向へと走り出すと、いきなり何もないはずの場所に腕を振り下ろして大きなくぼ地を作った。

「なんだ　一体どうしたんだ」

　僕は立ち止まり怪物が走り去った方向を見た。すると先ほど怪物の腕が巻き起こした砂煙の中から人影がこっちに走って来るのが確認できた。

「ぺっぺっ　こんなの聞いてねぇって」

「うあ　マイン！？」

「おお　レインー。　せっかく俺がわざわざっ助けにきてやったんだぜ。感謝しろオッ？！　ぉおおおおお！！！」

　マインは地鳴りが迫って来るのに気が付き後ろを振り向くと、怪物が凄い勢いで自分の背中まで迫って来ていたので、彼は慌てて逃げだした。怪物はマインの背中を狙って何度も容赦なく腕をふり下ろす。

「わっ　わりいけどレイン　……ちょっと助けてっ」

「…………感謝しろよ」