第18話 「Intermezzo(Mind1]
マインのギアを使えばこの場所で何があったかを、対象が感じ取った映像的イメージとして知ることができる。
「……ふっ!」
マインの左腕のブレスレットから放たれる藍色の光は精神系零具特融の物である。
彼は気を引き締めるように息を鋭く吐き出すと、静かに目を閉じた。
「繋がったぜ これから読みはじめる」
マインは自分の中の蜘蛛の記憶を、一つずつ読み解き始めた。
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手順としてマインの使うギア”眼界読摩”の力を発揮するまでの行程は、大きく三つある。
まずは対象とのつながりを手に入れる事だ。
いつもの人間を相手にするときにはコミュニケーションなどにより了承を得るという方法を使っていたが、今回は対象を摂取する事で代用した。
そして対象に直接触れていなければならなかった。
ここまでの条件を満たせばギアにテレスを込める事で力が発動する。また、目的の情報は「イメージ」「目的の映像的記録」「そこに残された対象の思念」の優先順位で入手可能だった。
眼界読摩で入手できる情報は、過去の出来事に限られていた。
それに対象の過去に見た記憶を覗くので、対象の視覚能力によっては全く使えない事もあったのだ。
だが、蜘蛛の視界は思っていたよりも良好だった。むしろ人の目よりも広い範囲が見渡せるぐらいだ。欠点と言えば世界に色彩が少し乏しい事と、ちょっとこの蜘蛛の向いている角度が悪くて、部屋全体が良く見えないことだ。
俺はギアで他人を操れるわけじゃないから、そこは運頼みだ。
サイトを使う前に目を閉じたのは、俺の視界と零具で読んでいる途中の光景が、ごちゃごちゃになって混乱するのを避けるためだ。
ミーシャちゃんに使った時も、実は前髪で隠れてる方の目は閉じていた。
このギアを使うときに周りの音など視覚以外は一切感じない。だが俺は、視界の外側で何か動くものを感じ取った。その辺りに意識を集中させてみる。
(……ふさっ )
そこに落ちてきたのは女物の衣服だった。就寝時に身に着けるようなゆったりとしたものだ。俺は思った。
こ、これはっ もしかして着替え中?!
(……ぱさっ )
次の瞬間、その服の上に一枚、純白の布切れが降ってきた。それは普通に生きていれば絶対に見ることのない幻の品。女の子の脱ぎたてパンティーであった。
うおおおっ 動け、動けええええぇぇぇええっつ!!!
俺は心の中で強く念じた。奇跡的に思いが通じたのか、蜘蛛が移動を始め、視界も移り変わる。
しかしそう上手くはいかないものだ。蜘蛛はミーシャに背を向けるように完全に反対の方向を向いてしまった。それからピクリとも動かない。
おいおーいっ!!!
何度も呼び掛けるが、心の声は届くことはない。これが……絶望?
「く、くそぉ……」
「……なんか、言ったか?」
余りの無念で、思いがつい口に出てしまったようだ。
「……ああ、なんでもないぜ」
ぐす、俺は作業に戻った。