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第17話 「ドリンキングストーン」


 マインがミーシャの残した伝言を読み上げるとその場にいた三人は少しの間ちんもくした。


 (そんなの無茶だろ……)


僕は思った。 


 家に帰るといっても王都までの道のりは、決して楽なものではない。ミーシャはその事を知っているのだろうか。


 それに迷惑だなんて、決めつけるのもいいところだ。そんなこと誰も言ってない。


 まあ、たしかに僕は、彼女のせいで人攫いのデューンだかダーンとかいう奴と戦う羽目になったし、迷惑じゃないかと言えばウソになるかもしれないけど……


「出てっちゃうなんて……まさかマイン君 ミーシャちゃんにいたずらとか、変な事したんじゃないよね?」


「え゛? あ、いやいや もうしてないよ」


「もうーー? やっぱり! 何かしたのねっ 」


「うう でっでもそれだったら、俺だけじゃないしさ マルマルもグルだったんだぜ」


「はいはい、人のせいにしない」


 なにやら二人で騒がしくしているようだったが僕には会話の内容は全く耳に入っていなかった。

いくら歩くのが苦手そうでも、やっぱり街から離れた場所がどれくらい危険なのか知らないはずがない。

王都へ行くにはそういった()()()をいくつも通らねばならないし、それに山賊などの追いはぎだって存在している。


 彼女の超電伝達板(テレパスボード)に記されていた書置きの内容をどうしても僕は信じられなかった。

 しかしミーシャの旅の不慣れを知らなかった二人は超電伝達板(テレパスボード)に書かれていた事にはかなり驚いていたが、時がたつと同時に腑に落ちたようでもあった。


「でもそうかぁ……でも、もうちょっとお話したかったかも……お別れも言いたかったなぁ」


 サラはがっかりして肩をおとし(うつむ)いてしまった。元気の無くなったサラを気づかい、マインが声をかけようとしたが、その前にサラはパチンと手を叩き顔を上げて見せた。


「そうだ! 下の酒場でお酒を飲んでたお客さんなら……! ミーシャちゃんがいつ出ていったか分かるかもしれないっ もしあんまり時間が経ってなかったなら、追いかけられるんだけど……」


 そう言ってサラは部屋から出ていくと階段を駆け下り、一階で酒をのんでいるマルマルの元へ向かった。


「んん~ 大丈夫だと思うけど、一応っ俺も行ってくるわ」


 そうしてマインも部屋を出ようとしたが僕はそれを止めた。


「いや、待ってくれ」


「へ? 」


「ちょっと手伝って欲しいんだけど」


 僕は辺りを見回した。


 ミーシャとは過ごした時間は短いけど、彼女はこんなに部屋を汚くしたまま去る性格ではないと思う。

 それに床に砕け散っていた花瓶のガラスが、窓の方から外から内に向かって放射状に散乱していた。

 

「この花瓶の散らばり方は、ふつうに落としただけじゃできない。広い範囲に散らばり過ぎなんだよ。思いっきりひっかけないと、こうはならないだろ」


「たしかになー ……つまり、レインが言いたい事って……」


 誰かによってミーシャは拉致された。


 僕はその可能性は十分にあると思っていた。なぜなら、ミーシャは少し前に攫われかけた身であり、森で襲ってきた男が「また来る」と言い残していたことを、先ほど思い出したのだ。


「一度、お前の零具(ギア)でこの部屋をみてくれよ そうすれば何か分かると思うんだ」


 僕の考えをマインに話した後、僕はマインに頼んだ。

 マインのメイン零具(ギア)"眼界読摩(theサイト)”なら、ここで過去に何があったのかを見て知ることができるだろう。


「まあ、いいけど…… 忘れたのか? 俺のギアは記憶を覗く相手が居ないと発動出来ないんだぜ

この部屋に居ない相手には行使出来ない。 へへ、あいにく遠視能力はついて無いんだ」


 そういうとマインは手を横に開きお手上げのポーズをしてみせた。


 そのとき、一階から大きな声で言い争っているのが聞こえた。サラとマルマルの声だ。


「……知ってるんでしょ? 意地悪しないで教えてよぉ」


「けたけたけた…………や~だねっ!」


「むかーー!!!」


 実際には、マルマルはミーシャの事など全く心当たりがなく、適当にあしらっていただけであったのだが、サラはそうとは知らずにずっと催促を続けていた。


 しばらく下から聞こえてくる二人の会話に耳を傾けていたが、マインと目が合い僕達は本題に戻った。


眼界読摩(theサイト)を使わなくちゃいけない相手なら…… あれはどうだ」」


 僕はそう言うと、天井からぶら下がっていた一匹の小さな小さな蜘蛛を指した。その蜘蛛には左右に対称にそれぞれ四つの目があった。


 蜘蛛の中には人間と同じくらい物を見れる種類もいるそうだ。

 ……八つも目があるんだ。必ず何か見ているはずだ。


 マインは僕の示した方向を見た。その蜘蛛を見たマインは(彼は虫が嫌いという事でもないのだけど)とても嫌そうな顔をした。


 マインの表情を見て、僕ははっと思い出した。うっかりしていた。


 それはマインが眼界読摩(theサイト)の読心の力をだれかに使うとき、会話で了承を得るという行程が必要だという事だ。。


 例えばミーシャに「はい」と言わせようとしたように、言葉巧みに無理やり了承を得るのがマインの上等手段だったのだが、……蜘蛛のような技をかける相手が会話の通じない場合はどうなるんだろ?


 僕はかなり前からマインの力は知っていたが、人外相手に使うところは今までに見たことが無かった。


「……なあ、もしかして人間相手じゃないと……無理だった?」


「はぁー……、 いや、人間じゃなくても出来ないことはないよ。 けどなぁー」


「じゃ、やれよ」


「ええーー―」


 マインはとても嫌がっていた。だけど僕にはマインの協力が不可欠だ。僕は彼に頭を下げた。


「頼む 力を貸してくれ また人攫いが来た可能性もある もし何かあって、後から後悔したくないんだ」


 目の前で誰か失う様な思いはもうしたくない。そのために出来ることはしておきたいんだ。


「人攫いか…… ああもーっ 分かったよ だけど貸し一つだからな?」


「ああ ありがとう」


 するとマインは何故か懐からパイ生地を取り出した。そして蜘蛛を捕らえるとそのパイ生地でサンドした。


「え゛っ まさか……」


「サラには言うなよっ!!」


 マインは目をつぶるとお手製の蜘蛛のパイ生地サンドを恐る恐る飲み込んだ。

 本人は飲み込んだつもりだったようだが、うっかり租借してしまったようで、口の隙間から蜘蛛の毛むくじゃらの足が飛び出ていた。マインの目が涙目になっている。


「げえぇぇぇー」


「げえぇぇぇーはこっちの方だよ! い、いきなり何見せてんだよっ」


「あ、ああ ギアを発動させるのにさ 了承をもらわなくてもな……、おぇぇ、対象の体の一部を取り込めば記憶を見られるんだ。人間じゃないと、思考までは読めないけどな。 ……うっ、おえぇぇ」


「……一部って、丸のみしてたじゃないか」


「だって小さいからさぁ っうぶぅっ!  (……量がいるんだよ)」


「……水、もってくるよ」


「ああ……助かるぜ」



 それからマインは僕が持ってきた水を飲み口をすっきりさせるた。

 その後、衣服の袖を捲り上げると、左腕に装着しているブレスレット型ギアにテレスを流し込みはじめていた。


 ミーシャの手がかりが、これで見つかればいいけど……

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