『釣り堀』と『吊り橋』
合同家族旅行から帰ってきて、2週間。
本当にずっと、変わりばえのない日常だった。
萌絵と一緒にゲームして、遊んで、時々、野田さんが一緒に来て、遊んで、野田さんと萌絵が二人で買い物いって、一人になっての3パターンの過ごし方しかしてなかった。
夏休みもあと、2週間しかないのに、本当に家族旅行ぐらいしかしてない。
直哉も忙しかったし。
あと、ラスト5日は萌絵の宿題の手伝いをすることが去年までと同じなら確定している。
ちなみに僕は宿題は最初に終わらせてしまう派だ。
そんな、暇人の僕に萌絵からのメールが来た。
『今度の日曜日、奈緒と一緒に吊り橋のある遊園地行かない。直哉くんも空いてたら誘って』
そういえば、萌絵の補習のせいでなくなった、野田さんとの遊園地に萌絵は行ってなかった気がするからその替えかな。
でも、僕たちも誘ってくれるんだ。
でも、吊り橋のある遊園地ってどこだ?
そんな田舎の遊園地に行くのか。
僕、お化け屋敷とかジェットコースターとか無理だよ。
『ごめん、吊り橋じゃなくて、釣り堀だった』
萌絵からの新しいメールの一文だった。
吊り橋は誤爆だったのか。
気がつかなかった。
釣り堀のある遊園地なら、僕たちが住んでいる街から1番近い遊園地にある。
あそこなら、絶叫系のアトラクションは少ないから、気楽でいいな。
直哉にも確認を取ると、直哉もその日は空いているらしく、行くと返事が帰ってきた。
萌絵に行くことを伝えると想像よりも早い集合時間を言われた。
♢♢♢
「騙された」
萌絵たちに案内されるがままについた遊園地は県外のジェットコースターの多さで有名なところだった。
特に、日本一の落差をほこる〈ホワイトスクリュー〉が有名だ。
「騙したわけじゃないよ。ちゃんと、言ったじゃん、釣り堀のある遊園地だって」
萌絵が指差す方向には、『夏限定、マス釣り』と書かれた看板がある。
「嘘はいってないけど、どこの遊園地か言わなかったよね」
「だって、言ったらこないでしょ」
「うん、多分」
なんで、ジェットコースターが苦手なのに、ジェットコースターが売りの遊園地に来なくちゃならないんだ。
「まぁ、来たからには、楽しもう。目指すは全制覇!」
「ええ、せっかく少し遠くまで来たんですし、楽しみましょう」
女子二人は企画者だから、当然のようにはしゃいでいる。
「じゃあ、僕は見ているだけで」
「何言ってんだよ、優希。折角、ここまで来たんだ。ジェットコースター乗ろうぜ」
直哉が僕の肩に腕を回すと、若干、引きずるような形で僕を遊園地の中に連れて行く。
その様子を女子二人が、微笑ましそうに見つめている。
その瞬間、僕は直哉の役割を悟った。
ごねる僕をジェットコースターに乗せる要員だということに。
「それに優希には感謝してるんだぜ。こんな場に俺を呼んでくれて。豊田さんはダメでも、俺には野田さんがいるじゃないか。この機会に是非ともアピールしてやる」
「が、がんばってね」
まずは、僕を乗せる要員からの格上げを図ってくれ。
「うまくいったら、また、本、貸してやるよ」
それは、本当にいらない。
♢♢♢
「うっぷ」
まだ、ジェットコースターの前座のコーヒーカップで「俺、カッコいいとこ見せるわ」と言って、回転させすぎて、気持ち悪くなったバカがそこにいた。
もちろん、直哉だ。
「はぁ、それでは私が彼のことをみてますから、二人は何か乗ってきてください」
「いや、僕が見るよ」
ジェットコースターが嫌いな僕が見ているべきだ。
というか、見させてください。
「いえ‥‥‥その‥‥‥」
野田さんが気まずそうに向けた視線の先には
「優希、次行こう!これなら、乗れるよね」
僕を呼び、大はしゃぎしている萌絵がいた。
僕に指名が入ったので、多分、気をつかってくれたのだろう。
萌絵が指さしているのは子供用の落差もそんなにない小さなジェットコースター〈ベビードラゴン〉。
これぐらいなら、流石に僕でも乗れる。
「その、ありがとう」
「いえ、楽しんできてください。あっ、萌絵。カメラ貸して!!」
「うん、いいよ」
萌絵が持ってきた一眼レフを野田さんに渡す。
萌絵に手を引かれながら、並び列に向かう。
あれ?
いま、直哉。野田さんと二人きりじゃない?
まぁ、直哉はそれどころじゃないけど。
♢♢♢
萌絵に手を引かれて、ついた場所には沢山の人が並んでいた。
萌絵と一緒にその列に並ぶ。
凄いな、あんな小さなジェットコースターでもこんなに並ぶんだ。
他愛のない話をしながら、20分近くたってようやく、乗り場の近くまで来た。
乗り場には〈ホワイトスクリュー〉と書かれていた。
あれ?〈ホワイトスクリュー〉?
あの小さなジェットコースターは〈ベビードラゴン〉だったよね。
萌絵の方を見ると、バツの悪そうな顔をしながら、僕から顔を背けている。
「また、騙したんだ?」
「だって、そう言わないと優希は乗らないでしょ」
「これ、戻れる?」
「諦めて。目立つよ。ここまで来たなら、乗って」
その後、10分でジェットコースターに二人並んで、乗り込んだ。
しかも、1番前。
ジェットコースターが最初のスピードアップのためにどんどん上昇していく。
ここ頂上からの落差が日本一なんだっけ。
確実な死刑が徐々に近づいていく。
「緊張してるの?」
隣の萌絵がとびっきりの笑顔で話しかけて来る。
この状況で笑えるのかよ。
「緊張っていうか、怖い」
「ハハ、怖くないよ。楽しいじゃん」
ジェットコースターを楽しめると思うのは好きなやつだけだ。
僕はあの、おしりがふわっと浮くのが大嫌いだ。
あー、なんかすごくドキドキしてきた。
「私は、緊張してるよ。こうして、優希と一緒に遊園地に来られたから。二人きりじゃないけど」
その言葉に驚きつつ、横を見ると、萌絵の顔は赤くなっていた。
「それってどういう意」
急な疾走感と風が僕を襲ってくる。
あっ、ふわっとした感覚がきた。
あーーーーーー、死ぬーーーーーー!!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
僕の絶叫がジェットコースター中にこだました。
「お疲れ、あれ、森脇さんは?」
「〈ホワイトスクリュー〉でギブ。今、向こうのベンチで休んでる。平井くんは?」
「だいぶ、気分良くなって、トイレに行ってくるって。それで、どうだったの?」
「うーん、吊り橋効果はできたかな。1番ドキドキしてそうなところで思いがけない一言を言ってみたから。それで、写真撮れた?」
「うん、ばっちり。カメラ、返すね」
萌絵が写真を確認する。
「うん、ばっちりだね」
「それ、なんで撮らせたの?」
「優希の絶叫している時の顔が欲しくて。私、優希の全ての顔を保存したいんだ」
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