『スイカ割り』と『睡眠薬』
夏休み、僕と萌絵が楽しみにしていることがある。
それは僕の家族と萌絵の家族合同の家族旅行。
僕と萌絵の家族が意気投合してできた会社なので、萌絵の父親が社長、僕の父親が副社長、母親がそれぞれの秘書をしている。
なので、休みどころか帰ってくることすら少ない。
でも、毎年必ず、夏休み、冬休み、春休みにはそれぞれ、休みを取ってくれる。
さっき、母親から今年も、開催すると言うメールが来た。
今年は3泊4日で、プライベートビーチがあるペンションを借りたらしい。
会社の業績が毎年、向上して、東京の一等地に店舗を出せるようになったとは聞いていたけど、プライベートビーチ付きのペンションを借りれるようになるまで、良くなっているとは思わなかった。
萌絵の方にもメールが届いたらしく、嬉しさ溢れるメールが届いた。
『絶対に、睡眠薬しようね』
の一文は誤爆だった。
残念だけど、僕はそれほど睡眠で困っていない。
かなり快眠できていると思う。
すぐに、
『絶対に、スイカ割りしようね』
だったことを知った。
便秘といい、睡眠薬といい、萌絵は体調が悪いのかな。
♢♢♢♢♢♢
「いや〜、やっぱり、ビールは最高ですねー」
「そうですね。我々は商談なんかも酒の席でしますので、こうやってなりふり構わず飲めるのはなかなかありませんからね」
旅行1日目の夜。
毎回、恒例になっている光景が眼前に広がっている。
両親たちによる、飲み会だ。
いつもはハメを外せない両親たちがここぞとばかりに飲みまくる。
今回も空になった空き瓶はもう20本を超えようとしている。
「あんまり、飲み過ぎないでよ、父さん」
「うるせ〜。今日は飲むんだ!!」
僕の父親はいの一番にがぶ飲みし、もう出来上がろうとしている。
萌絵の父親は自分の体調がわかっているのか、体調を見ながら、飲んでいる。
少しは見習って欲しい。
「でも、楽しみにしていたからって、あんまり飲み過ぎはダメですよ。あっ、空いたおつまみの袋、片付けますね」
「はーい、わかりました」
萌絵の言うことは素直に聞く、父親。
僕との差はなんだ。
女子だからですか。
「萌絵ちゃん、ありがとね」
「いえいえ、お母さん。お母さんがたは飲んでください。いつも、私たちのために働いているので、今日のこの時ぐらいは手伝いますよ」
「えらいわ〜。ねぇ、やっぱり、萌絵ちゃん、うちの嫁にならない。あっ、うちのバカ息子じゃ、釣り合わないわ」
おい、母親。
萌絵にデレデレなのは許すけど、仮にもそのバカ息子はあなたの息子だぞ。
「あら〜、そんなことないわよ〜。優希くんだって良くできた息子でしょ〜。今回も頭の出来が悪い萌絵に勉強をつきっきりで教えてくれくれたらしいでしょ〜。私たちこそ優希くんが欲しいわ〜」
僕の母親とは違い、いつも明るく笑顔で、口調も柔らかいのが、萌絵の母親。
萌絵の明るい成分は彼女の遺伝だと思う。
「そうだったのかい。優希くん、いつもありがとうね」
「あっ、いえ。僕こそ、いつもお世話になっているので」
ご飯を作ってもらったり、萌絵には色々して貰ってる。
「良いんですよ、二人とも。うちの息子、付きっきりで勉強を教えて、何かあったのか、順位を30位近く落としてるんですから。感謝されるようなことはもう、味わってるんですよ」
おい、母親。
いらんことを言うな。
確かにあの3日間の特に夜中は味わえない緊張を味わったけど。
「それでも、優希くんは、真面目で誠実で、良い男じゃないですか」
「いやいや、それなら、お宅の萌絵さんこそ、明るくて、家庭的で、優しくて、良いお嫁さんになるじゃないですか」
「「「「ハハハハハハ」」」」
さっきから、何か話をすれば、最後には四人で笑っている。
これが酒のチカラなんだと思う。
毎回、こうなるし。
時間はそろそろ12時。
そろそろ寝たい。
割り当てられた部屋に向かおうとする。
「おい、優希。何、寝ようとしてるんだぁ〜。早く、戻ってこい。そして、お前も飲め!」
いや、それは犯罪だからね。
「そうよ、せっかくなんだから、この一学期のこと色々聞かせなさいよぉ」
「私も気になるので、是非、お願いしたい。萌絵からは余り話してくれないので」
うちの両親はどうでもいいとしても、萌絵の父親に言われたら、断れない。
両親たちがいる席へと戻った。
「あれ?そう言えば、萌絵は?」
「萌絵なら、ゴミ捨てて来るってこの部屋を出て行った限り戻ってきてませんよぉ〜」
萌絵、逃げたな。
それが、正解だと思うけど。
結局、より夜が深くなるまで、僕は両親たちに捕まった。
♢♢♢
「お父さん、体調はどう?」
「うーん、頭、痛い」
「飲み過ぎでしょ。はい、水と薬」
「ありがとう」
♢♢♢
朝、慣れないベットで目を覚ました。
時間は朝の8時。
昨日は2時に解放されたので、約6時間寝たことになる。
まだ、若干眠い。
いつもは起きるのに苦労するのに、こういう旅行の時だけ、なんでしっかり6時間で起きれるんだろうか。
着替えて、階段を下りると、リビングのソファーに座って、萌絵がテレビを見ていた。
「おはよう、優希」
「おはよう、萌絵。父さんたちは?」
「まだ、寝てるんでしょ。昨日、あんなに飲んでるんだから」
「そうだよね」
テーブルの上には僕が帰った時には出ていなかった種類の酒の空き缶が残っている。
僕が寝に行った後も、飲んでいたんだろう。
「ねぇ、散歩行かない。眠気覚ましも兼ねて」
「いいね。行こうか」
「わかった。じゃあ、準備するね」
♢♢♢
森の小道を二人並んで歩く。
木々が太陽を遮ってくれているとはいえ、やっぱり夏ということもあって、少し歩くだけで、体力を奪われ、喉が乾いて来る。
萌絵の服装は動きやすいように、デニムのショートパンツに白のTシャツだ。
「ねぇ、少し休憩しない」
15分ほど歩いた時に、萌絵が僕に提案する。
萌絵の額から大粒の汗がこぼれ落ちる。
「そうしようか」
「うん、あのあたりがいいんじゃない」
萌絵が指さしたところは、道から少し外れた、大きな木の下だった。
しっかりと木陰になっている。
二人で、この場所に腰を下ろす。
「はい、これ、優希の」
萌絵が持っていたペットボトルを渡してくれる。
「ありがとう」
腰を下ろすと、少しの疲れと寝不足からか、欠伸が出てきた。
「優希、あくび?本当は眠いんじゃないの?」
「かもね」
ペットボトルの中の水を飲む。
本当に疲れているのかもしれない。
本当に‥‥‥だんだん‥‥‥‥‥‥眠く‥‥‥‥‥‥‥‥‥なって‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥く。
僕の意識はそこで途切れた。
目を覚ますと、柔らかい感触が、頭の下にある。
どうやら僕は眠ってしまったようだ。
「あっ、やっと起きた」
目の前に萌絵の可愛らしい顔が現れる。
下の柔らかい感触、目の前に萌絵の顔。
そこから、導き出される結論は1つ。
これ、膝枕だ。
急いで、起き上がる。
「ご、ごめん」
「別にいいんだよ。優希、急に寝ちゃうからさ。流石に地面に寝かせるのは悪いかなって思って自分からしたことだし」
「あ、ありがとう」
「それにしても、優希。そんなに疲れてたなら言ってくれればよかったのに。誘わなかったよ」
「いや、僕もこんな急に寝ちゃうとは思ってもなかったから。でも、大丈夫。今はもうスッキリしてるから」
「なら、散歩の続きしよう」
そのあと、もう30分、萌絵と二人で他愛のない会話をしながら、散歩の楽しんだ。
ペンションに帰ると、大人たちがぐったりしていた。
「優希の寝顔を間近に見られたし、今回も良かった。邪魔になりそうなお父さんたちは睡眠薬で眠ってもらって、優希も水に溶かした催眠薬で眠らして、膝枕。わざと、太ももが感じやすい短パンをえらんだんだから。少しでも優希が何か私に感じてくれるといいな」
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