『感謝』と『監視』
テストが返ってきた日、萌絵からメールが、
『結果はあれだったけど、勉強見てくれたから、監視してるね』
こんなに理不尽なことがあっていいのだろうか。
テスト勉強を手伝ったのに、その相手から監視される。
僕が何をしただろうか。
これは多分、誤爆だ。
怖いワードでの誤爆だ‥‥‥誤爆だよね。
この前、怖いワード監禁が本当だったからって、今回の監視も本気じゃないよね。
なのに誤爆の連絡がすぐ返ってこないのはなんでなの。
5分後、萌絵からまたメールが来た。
どうやら、本当に誤爆だった。
それなら、すぐに返して欲しかった。
『結果はあれだったけど、勉強見てくれたから、感謝してるね』
が、本当のメールだった。
萌絵が感謝してくれたなら、僕も監禁されたかいがあったと思う。
僕は夜中、眠れなくなるから、もうこりごりだけど。
♢♢♢♢♢♢
テストが終わって、夏休みに入った。
僕は絶賛、暇で、ソファーに寝そべりながら、ぼーっとしている。
時間はもう12時を超えそうなのに、今日、何もしてない。
何もすることがない。買いたいもののないし、一人で行きたい場所もない。
いつもならこういう時、萌絵が来て、何か一緒にするのだけど、今日は萌絵は赤点のせいで学校で補習だ。
萌絵は現代文で赤点をとったけれど、マークずらしでの赤点だったので、先生が温情で3日間の補習を1日にしてくれたらしい。
それでも、英語や数学、あと一部の生徒が捨てた社会科目よりは圧倒的に赤点を取りにくい科目だったので、「ほぼ、先生とワンツーマンだよ」と嘆いていた。
直哉も夏休みはテニス部の練習で忙しいので、一緒に遊べる日はとても少ない。
友達がその二人ぐらいしかいない僕は二人の予定が埋まっていると、途端に暇になってしまう。
それに、萌絵がお弁当を作ってくれたから、昼食の心配はないけど。
〈ピンポーン〉
突然、玄関のチャイムが鳴った。
最近は、Amazonで買い物もしてないし、出前を頼んだ覚えもないので、両親の仕事で使う荷物かな。
ソファーから起き上がって、玄関の前まで行くと、ドアスコープから、相手を確認する。
意外な人物だったので急いでドアを開けた。
「野田さんですよね」
「おはようございます、森脇さん」
野田奈緒さんは萌絵ととても仲の良いクラスメイトだ。
僕は萌絵経由で何度かおしゃべりしたことがある。
学校では[陽の豊田、静の野田]として、その落ち着いた清楚な感じが男子に人気だ。
萌絵もその明るさから、男子に人気なんだけど。
制服しか見たことなかったが、麦わら帽子、白いハンドバックに、白のワンピースが彼女の清楚さをより一段階格上げさせている。
「おはようございます。それで、どうしましたか」
「えーと、萌絵っていらっしゃいますか。実は今日、萌絵と遊園地に行こうって約束していたんですけど、いくら待ってもこないですし、連絡が取れなくて。家のチャイムも押したんですけど、反応がなくて。萌絵から隣の家が森脇さんなのは聞いていたので、事情を伺いたくて」
「萌絵なら今日は現代文の補習で学校ですけど」
「えっ、そうなんですか!萌絵、言ってくれればよかったのに」
言ってなかったんだ。
せめて、連絡だけはしてあげてよ。
野田さんも災難だな。
暑い中、来ない萌絵を待っていただなんて。
「萌絵にはしっかり言っておきます。なので、今日は帰っていいですよ。萌絵は夕方まで学校ですし。外も暑いですし」
「いえ、あの‥‥‥‥‥‥森脇さんの家に上がってもいいですか」
why?
なぜ、そこまで話が飛躍した?
論理展開がぶっ壊れてない?
「違うんです。ここまでされたら、私から萌絵にガツンと言いたいんです。森脇さんの家なら萌絵が帰ってきたの気がつきますし」
「いや、僕、一人しかいませんよ」
「平気です。萌絵から、森脇さんは誠実な人だと聞いてますから、信用できます」
「あと、昼食の用意なんかもできないですけど」
「今日は萌絵と弁当を持って、集合だったので、持っているので安心してください」
「何にもありませんよ」
「ゲームくらいはありますよね。それで十分です」
何か、野田さんが僕の部屋に入ってくる流れになりかけている。
萌絵は幼馴染で昔からよく二人っきりになることはあったけど、野田さんは迷惑をかけることはしないけど、どうなるか、わからない。
しょうがない。奥の手を出すか。ちょっとした諸刃の剣だけど。
「あの〜、一応、萌絵の部屋の合鍵を持っているので、萌絵の部屋で待つこともできますけど」
合鍵を持っていることはバレるけど、どうだ。
「親友と言えども、勝手に萌絵の部屋に入ることはできません」
ダメか。
「それとも、私が入るのは嫌ですか」
いや、嫌じゃないんだよ。
ただ、そんなに話したことないから、心配なだけで。
でも、幼馴染の失態は幼馴染が償うべきことかな。
あと、野田さんがこのことで俺が野田さんのこと嫌いだと思われたら、今後の萌絵との交友関係に支障をきたすかもしれないし。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
僕が了承すると、野田さんは玄関で靴を脱ぎ始めた。
「私、男の子の家に一人で入るのはじめてなんです」
野田さんは少し頬を赤らめながら、恥ずかしそうに言った。
♢♢♢♢♢♢
野田さんとの二人の時間は野田さんが意外にゲームがうまかったので、案外、盛り上がった。
経験者なのに野球ゲームで10点差つけられた時は泣きそうになった。
そして、今はオセロをやっている。
「僕、萌絵に負けたことないんだよね」
と言って始まったにも関わらず、目下五連敗中。
しかも、ほとんど大差をつけられて負けている。
「それ、悪手ですよ」
野田さんが白を置いて、ひっくり返していくと、途端に僕がおける場所が少なくなった。
「萌絵、相手なら勝てるんだけどな」
「私は萌絵とやった時、ほとんど毎回、一色にしますよ」
それを早く言って欲しかった。
野田さん、凄く強いじゃん。
「森脇さんって、萌絵の幼馴染なんですよね」
「そうだよ。幼稚園からのね」
1番良さげな場所に黒を置く。
「どうやって、知り合ったんですか」
すぐに、野田さんは白を置いた。
「ぼくたち誕生日も近くてね。それで、親同士が病院で意気投合しちゃって。今は、親同士で独立して会社やってる。だから、いつのまにか隣にいつもいたから」
「そのまま、高校までですか?」
「そう。高校の時は驚いたかな。僕が少し上の学校を受けることに決めたら、萌絵のその学校を第一志望にしてて。萌絵の学力だと厳しかったのに、合格して。一緒に高校に通えるのが、楽しいからいいんだけど」
黒を置いた。
「そうなんですね」
野田さんが白を置く。
「今もずっと、色々気にかけてくれるしね。本当にいい幼馴染だよ。だから、これからも萌絵のことよろしくね」
置く場所が1つしかなかったので、そこに置いた。
「どうしてそこまでわかって、気がつかないんですかね」
野田さんが迷いなく、白を置いた。
「どう言うこと?」
「なんでもありません。チェックメイトです。もう、森脇さんがおける場所はありません」
「うわー、本当だ」
僕がため息をつくと、隣の部屋の玄関のドアが空いた音が聞こえる。
時計を見ると、午後の5時。
萌絵が帰ってくる時間としてはちょうどいい。
「帰ってきましたね。それじゃあ、森脇さん、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
野田さんのおかげで、暇だった時間を楽しく過ごせた。
「それで、あの、直接言うと恥ずかしいんですけど、友達になりませんか。今までは、萌絵の友達みたいな関係だったので、これを機にどうですか」
「こちらこそよろしくお願いします」
友達が増えることは、嬉しいことだし、拒むことはないもない。
「それで、今度、また遊びに来てもいいですか。私も夏休みとか暇なことが多くて。今日、楽しかったですし」
「いいですよ。お互い時間が合えば」
「ありがとうございます。それじゃあ、また」
野田さんが僕の部屋から出ていくと、萌絵の部屋のドアが開くのが聞こえる。
野田さんが萌絵にガツンと言いに行ったんだろう。
凄くいい子だったな。
「森脇さんと友達になって、家にいけるだけの関係になりました」
「ありがとう、奈緒。ごめんね、こんなことさせちゃって。でも、私がどうしても用事でいない時に、優希を見守る人が必要で、奈緒なら安心だから」
「いいですよ。森脇さんと過ごしてみて、萌絵が言うように、良い人だと言うことはわかりましたから」
「優希だからね、当然だよ」
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