『監禁』と『換気』
月曜から始まる期末テストまであと、3日。
期末テスト前、最後の学校を終えた僕は早々に家に帰って勉強を始めていた。
この3日間をどう有意義に過ごすかで、順位が上下したり、赤点に足を踏み入れるか、踏み入れないかが、決まる。
萌絵にはわからなかったら、「携帯で呼んで」と言って別れた。
解らなかったらすぐに連絡してくるだろう。
〈ピロリン〉
さっそく携帯が鳴った。
相手は予想通り、萌絵だった。
『3日間、換気していい?優希のお母さんから許可はもらってるんだけど』
換気か。
空気を入れ替えて、気分をリフレッシュして勉強しようということかなぁ。
別に僕に確認取らなくてもいいと思うんだけど。
まぁ、母が許可出したなら、大丈夫か。
僕はすぐに
『いいよ』
と書いて、返信ボタンを押した。
僕が『いいよ』と返すとほぼ同時に萌絵からまたメールがきた。
萌絵の方が若干、早かったのか、萌絵のメールの方が上に来ている。
内容は、
『ごめん、換気じゃなくて、監禁だった』
と書いてあった。
ということは、本当は、
『3日間、監禁していい?優希のお母さんから許可は得てるけど』
となるのか。
嫌だよ。
いや、こんな内容だったら、『いいよ』なんて送らないよ。
残念なことにもう既読されちゃったけど。
というか、母!!
何、自分の息子を監禁していい?にOK出してるんだよ!!
あと、誤爆。
いつもは危ない単語で間違えて、普通の単語でしたっていう流れだろ。
なんで、こんな時だけ、危ない単語が正解なんだよ!
「優希」
いつの間に、部屋に入ってきたのだろう。
後ろからかけられた声に驚きと恐怖で身体がビクッと反応する。
「さあ、行こうか、私の部屋に」
笑顔に萌絵の顔がとても恐ろしく見えた。
♢♢♢
「えっ、何?テストまで同じ部屋で過ごしてほしいってこと?」
「そうなの!私、絶賛、ピンチで。優希にずっと勉強教えてほしくて。それで、優希のお母さんに連絡とって、テストでいい点取るために優希を3日間、私の部屋に監禁していいですかって聞いたら、いいよってきたから」
萌絵が見せた、萌絵と母のやりとりの記録には確かに母が『いいよ(^▽^*d)』と返信していた。
母、絵文字使うんだ。
軽いな。
急いで、荷物をまとめる。
「えっ、来てくれるの?!」
「最初から萌絵に勉強教えようと思っていたから、その度に行くのか、萌絵の部屋にずっといるかの違いなら、関係ないし」
「ありがとう!」
自分用の勉強道具を持つと、萌絵の部屋に移動した。
萌絵は、僕が入ると、ドアの鍵をかけ、ロックをかけ、チェーンまでした。
用心深いな。
♢♢♢♢♢♢
夜、10時を過ぎた。
今は、今日の復習として、萌絵にやってもらった三角関数の問題の答え合わせをしている。
その間、萌絵はシャワーを浴びている。
僕は、萌絵がこの問題を解いている間に先にシャワーを浴びさせてもらった。
今、着ている服は萌絵が持ってきてくれた、萌絵のお父さんの私服らしい。
萌絵のお父さんは僕より背が高いんだけど、着ている服は僕にぴったりだった。
昔の服なのかな。
「あがったよ。どうだった、答え」
濡れた髪、首に巻いたタオル、そして、いつもより胸元が空いている服、全てが艶めかしく感じてしまい、思わず、目を背ける。
「うん、全問あってたよ。じゃあ、今日はもう終わりだし、これで」
時間的にも良いし、寝るために自分の部屋に戻ろうとする。
「何言ってるの?言ったでしょ、監禁するって。寝る時も一緒だよ」
「いや、だって、俺の部屋、隣だよ」
「わからないじゃん。もしかしたら、逃げるかもしれないじゃん。私を置いて」
「逃げないよ。僕もテスト勉強しないといけないし」
「絶対とは言い切れないでしょ」
ああ、なんか水かけ論に発展しそうだな。
折れといた方がいいかな。
ソファーとかで寝ればいいし。
「わかった。じゃあ、この家で寝るよ」
「うーん、ねぇ、後ろ向いて、手を後ろで合わせて」
「いいけど」
手を合わせて、待っていると、何か細いものが巻かれていく。
「出来た!優希の両手と私の左手、繋げた!」
「えっ」
思いがけない言葉に萌絵の方を見ると、確かに萌絵の左手に縄がしっかりと結んであって、僕の両手は離れなくなっていた。
「何してるの?」
「だって、このままだと逃げ出すかもしれないじゃん。なら、私と繋いでおけば逃げ出せないかなって」
「だからって、これはないでしょ」
なんか、江戸時代の囚人と看守みたいでやだ。
「いいじゃん。優希、好きなんでしょ。縛られるの」
「それ、どこ情報ですか?」
僕は縛られるのが好きなんていう誤情報がまわってるんだ。
「だって、優希持ってたじゃん。なんだっけ、『縄とグラビア〜真夏の学校〜』だっけ。優希、流石に9年間、隠し場所が同じなのは幼馴染だったら、気づくよ」
なんで、僕の仲良い人たちは僕の黒歴史を掘り起こしいくのだろう。
あと、隠し場所は変えておこう。
「あれは直哉が勝手に入れただけだからね」
「まぁ、どうでもいいけど」
「いや、どうでもよくはないから、明日にでもしっかり弁明させて。それで、どうするのこれ、僕が飲み物、飲みたくなったら」
「そしたら、私が飲ませてあげるよ。ちょっと待っててね」
萌絵が冷蔵庫の方へ歩いていく。
僕と萌絵は繋がっているので、出来るだけ萌絵に歩幅を合わせて歩く。
キッチンに着くと、萌絵は冷蔵庫から透明な飲み物を取り出した。
「はい、口開けて」
僕の口に萌絵が飲み物を入れる。
若干、恥ずかしい。
飲み物はやや甘い、炭酸水だった。
「こんな感じで、私がなんとかするから、平気でしょ。夜の間だけだし」
「それじゃあ、僕がトイレ行きたくなったらどうするの?」
「私が脱がしてあげるよ」
トイレには絶対にいけなくなった。
「あと、寝る時、どうするのこれ」
僕がソファーで、萌絵が自分の部屋の布団で寝るなら、明らかにこの長さでは足りない。
「えっ、一緒の布団で寝るから大丈夫でしょ」
♢♢♢
「スウ‥‥‥スウ‥‥‥」
今、僕の隣では同じ布団で寝ている萌絵が可愛らしい寝息をたてながらぐっすり眠っている。
萌絵に押し切られ、結局、一緒の布団で寝ることになった。
確かに5年くらい前までは一緒に寝たことはあるけど、高校生になって、一緒に寝たことはまだない。
同じものを使ったはずなのに、断然いい匂いが萌絵からしてくる。
それに、昔よりも明らかに大きくなった、胸が僕の視界に入ってくる。
身体が時間が経つにつれて、身体が暑くなってくる。
落ち着こう。萌絵は僕を信じて、この状態に自分からしたんだ。
ここで、萌絵を裏切る行為はできない。
無心。無心。無心。無心。無心。無心。無心。無心。無心。無心。
次の日から、なんとか縛るのだけはやめてもらったが、一緒の布団で寝ることは変えられなかった僕は寝不足でミスを連発し、順位が30位落ちた。
萌絵は現代文でマークミスを犯し、赤点を獲得した。
なんか‥‥‥‥‥‥悲しい。
「あーあ、やっちゃったなぁ。でも、いい、アピールはできたかな。久しぶりに一緒に寝れたし。でも、せっかく寝る前の飲み物には毎回、惚れ薬入れたのに、何もしてこなかったな。まぁ、そこが優希のいいところでもあるんだけどね」
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是非、考えてみていただきたい。