『ブルー』と『ブルマ』
日間16位になってました。
ありがとうございます。
体育祭。
ここ明誠高校では毎年、6月上旬に行われる。
新しいクラスメイトとの絆を深めあったり、まだ仲良くなれてない人と交流することを目的としているため、珍しくこの時期に行われる。
そして、クラス中間層の僕が1番輝く日でもある。
「青組のアンカー、森脇くんが、赤組の野球部、牧田くんを抜いた!そして、そのままゴール!!2年のクラス対抗リレー、優勝は青組!!」
僕がゴールテープを切り、放送委員が青組の勝ちを伝えると、青組の応援席が盛り上がる。そして、「森脇、森脇」と森脇コールが起こったので、右手を上げて、それに応えた。
そう、僕は足が速いのである。
♢♢♢
「悪かったな、優希。前との差を広げちまって」
3年生のクラス対抗リレーが終わった後、親友の直哉が申し訳なさそうな顔をする。
ちなみに3年生の結果は5クラス中3位。
まあまあの結果だった。
「直哉の相手は陸上部のエースだし、むしろ、直哉があまり差を広げなかったから、僕が追いつくことができたんだし」
親友の平井 直哉はテニス部に所属していて、2年生ながら団体戦のレギュラーに選ばれている運動神経バリバリの男だ。
「まっ、勝てればいっか。これで、クラス対抗リレーは2連勝だな」
「そうだね」
去年も同じクラスだった僕らはクラス対抗リレーで直哉が3番目、僕がアンカーを担当し、2人で4位から1位まで順位を上げた。
その時から、僕は直哉と仲良くなった。
「これで、だいぶ前との差を縮めて、後半戦に入れるな」
現在、僕たち青組が2位。
前の黄色組とは30点差の位置につけている。
「後半は3年生の競技が多いから、3年生に期待するけど、僕たちの競技は16人17足競走しかないよね」
「ああ、女子は借り物競争があるけど、俺たちが出るのはそれだけだな。それより、優希。そろそろくるんじゃないか」
「どうかな?去年は凄かったけど、化けの皮は綺麗に剥がれたよ」
僕たちが青組の応援席付近に戻ると、クラス関係なく僕の周りに女子の垣根ができる。
「ほらな」
直哉が当然といった感じで僕から離れていく。
もちろん、僕にモテ期が到来したわけではない。
彼女たちの目的は
「森脇くん、バスケ部どう」
「いえ、森脇くんにはサッカー部が向いてるわ。縦横無尽にコートを走りまわりましょう」
「森脇先輩は平井先輩と仲良いんですよね。なら、テニス部はどうですか?」
部活の勧誘である。
足が速いのは運動部にとってはかなりの高評価らしく、去年もクラス対抗リレーが終わった時点でこれよりも多くの人が僕のもとに集まった。
去年と同じことが現在も帰宅部所属の僕に起こっているだけだ。
ただ、運動部に入るつもりはさらさらない。
なぜなら、僕はただ足が速いだけの男だから。
去年の体育では野球では三球三振、バドミントンでは空振りの連続、バスケではドリブルすればボールが飛んでいく。
極め付けはサッカーのシュートテストで空振りして、変にボールにカスったせいで体勢を後ろに崩し、後頭部を思いっきり打ち付けて、保健室に直行するはめになった。
そんな僕が運動部に入って活躍できるわけがない。それを知っている去年のクラスメイトたちは誰一人、僕の周りにいない。
というわけで、僕は今から全員の勧誘をやんわり断る作業が始まる。
誰かが、連れ出してくれればいいんだけど、その筆頭候補の1人だった直哉はさっき早々に離脱した。
そして、もう一人の候補の萌絵は現在は保健委員の当番でこの場にはいない。
少し離れたテントで作業中だと思う。
後は、同じ組のクラスメイトだが、全員、昼ごはんを食べに教室か家族の元へ散っていく。
僕が自分で断っていくしかないよね。
♢♢♢
全員の勧誘を断り終わった時には、昼休みの時間が15分削られていた。
あと、残念ながら、直哉は家族が来ており、萌絵は保健委員の仕事で忙しいので、両親の来てない自分はほぼボッチ飯となってしまった。
鞄の中から、萌絵が作ってくれたお弁当を取り出す。
そんな時、携帯が鳴る。
萌絵からだった。
内容は
『ブルマ、勝ってるね』
残念ながら、ブルマは体操着戦争の敗北者だと思う。
勝っては絶対にない。
あいつはもう普段の生活でお世話になることはほとんどない。
使用用途が限られてしまった一品だ。
あと、体育祭でこの誤爆は少しヤバイ。
本来は、
『ブルー、勝ってるね』
だった。
なぜ、青を英語にわざわざ直して、誤爆するのか。
あと、なぜ萌絵がブルマを知っているのか。
少し気になった。
♢♢♢
「これから、2年生女子の借り物競争を始めます」
アナウンスと共に選手が入場してくる。
この競技は保護者から物を借りることも多く、結構盛り上がる。
あと、体育祭競技の中で1番時間がかかることでも有名だ。
もちろん、萌絵もこの競技には出場する。
「それでは、位置について、よーい、ドン」
体育顧問の掛け声で、競技が始まる。
萌絵は中盤の位置でお題が書かれた紙を取った。
そのお題を見た萌絵は一目散にこっちの方へ走ってくる。
「おい、優希、お前、恋人からお呼ばれじゃないか」
「幼馴染だからね。それに、まさか僕じゃないでしょ」
「優希、来て!!」
萌絵が大声で僕のことを呼ぶ。
えっ、まじで僕?
「優希、早く!!」
「わかった」
急いで、萌絵の元へ向かうと、萌絵は僕の手をしっかり握って、お題のものに合っているか確認する列に並ぶ。
なんだろう。
萌絵が僕を選ぶお題って。
真っ先に思い浮かぶのは
『1番、仲のいい友達』
『1番、お世話になっている人』
とかなんだけど‥‥‥‥‥‥。
「さて、次は豊田くんだね」
無心で考えているうちに、順番がまわって来ていた。
この競技は公平に行うため、マイクを使って全校生徒に聞こえるようになっている。
これを一人ずつ行うので、必然的に時間がかかる。
「えーと、豊田くんへのお題は‥‥‥」
先生が紙を開く。
『大切な人だったら』、嬉しい。
「この場にある、あなたの1番大切な‥‥‥」
おー!!!!!
来た!!!!!
「もの」
モノ‥‥‥‥‥‥もの‥‥‥‥‥‥物!!!
えっ、物!!!
萌絵にとって、僕は人間じゃないってこと!!
「と、豊田くん。ど、どうして彼を」
先生が明らかに動揺している。
それはそうだろう。
物なのに人を連れて来たんだから。
「優希は私にとって大事なんです。昔から知っていますし、家は隣同士で、勉強を見てもらってますし、一緒にご飯も食べてますし、寝泊りしたこともあります。私にとって優希以上に大切なものはありません」
うん、凄く嬉しいんだけど、マイクに通ったせいで全校生徒に今の言葉が伝わったとなると凄く恥ずかしい。
あと、寝泊りしたことありますで、生活指導の先生が凄い勢いでこちらを見てきた。
なにも、変なことはしてないですよ。
高校生になってからはありませんからね。
「だからといって、彼を‥‥‥‥‥‥もしかして、君はこの平仮名の『もの』を物質の『物』ではなく、人物の『者』と考えたのかい」
「はい、そうですけど」
「なるほど、これはちゃんと書かなかった先生たちが悪い。それなら、合格だ」
合格が出て、僕たちは合格者の場所に移動する。
よかった。
萌絵から人間として見てもらえてた。
「ありがとう、優希。急いで、来てくれて」
萌絵が僕のことを物だと考えていたら、凄く嫌だった。
本当によかった。
「お礼にブルマぐらいだったら着るよ」
「ブルマは萌絵(の誤爆)だろ」
萌絵のヒソヒソ声に対して、咄嗟の爆弾発言に驚いた僕は普通の声で言ってしまった。
周りで聞いていた生徒たちのせいで、僕のあだ名が1週間〈ブルマ〉となり、一部の女子から少し軽蔑された。
解せない。
「これで、優希を取り囲んでいた女子たちへの良い牽制になったかな。優希は絶対に私のものだから」
読んで頂いた皆さま方、感想、ブックマーク、そして、下の評価の☆を☆☆☆☆☆から★★★★★にしていただくと、作者のモチベーションは上がります。
皆さまの一票が作者の力となります。
どうでもいい話①
サッカーの話は実話です。
先生に凄く心配され、保健室のベットで25分くらい寝ました。
作者は凄く元気でした。
どうでもいい話②
本日の朝、作者はお腹を少し壊しました。
そのため、いつもは余裕で着くはずの学校に遅刻しかけました。
ちなみに昨日の夕食はコンビニ弁当、今日の朝はカレードリアにサラダと"コーンスープ"でした。
あれ、僕の周りには女子なんていないのになぁ?
(三話、参照)