『明治』と『メイド』
2学期が始まる。
2学期、生徒たちに待ち受けるイベント。
それは文化祭。
今も、文化祭の内容決めが教室で行われている。
「じゃあ、男子の女装コンテスト出場者は平井くんに決定しました。拍手!!」
クラスの皆の拍手に直哉が手を振って応えた。
女装コンテストは毎年、校庭近くのステージで行われる。毎年、クラスの男子から1人、参加する。
来場者ではなく、生徒たちから絶大な人気があり、毎年沢山の生徒が集まる。
僕は幼稚園の時のお遊戯会で、なぜか女装で乙姫役をやらさせたことによって、女装がトラウマになっている。
「それじゃあ、1週間後の火曜日までにお化け屋敷か、メイド喫茶か、票を取るので、各自考えてきてください」
うちのクラスの出し物はお化け屋敷が既定路線だった。
しかし、直哉のふざけたメイド喫茶の提案に、男子が悪ノリ、女子が男子が執事の服装を着てくれるなら、という援護射撃もあり、最後の二択まで残った。
だから、さっき、萌絵から送られてきた
『メイドの歴史、教えて』
は納得できる誤爆だった。
出し物として、検索していたのが出てきて決まったのだろう。
メイドの歴史は僕は中世ヨーロッパで生まれ、少し前から秋葉原などに出現したぐらいしか知らない。
『明治の歴史、教えて』
が本当のメール内容だった。
すぐに教えに行った。
♢♢♢
そのメールから4日後の土曜日。
萌絵からメールで夕食ができたと送られてきたので、隣の萌絵の部屋に向かう。
扉を開けると、食欲をそそるような、ケチャップの匂いがする。
そして、
「おかえりなさいませ、ご主人様」
水色のメイド服を着た、萌絵の姿があった。
僕はゆっくりと扉を閉めた。
どうやら、疲れているらしい。
幻覚を見てしまった。
2、3度、瞬きをする。
意を決して、もう一度、扉を開ける。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
さっきと同じ光景が広がっていた。
幻じゃないのか。
「どうしたの、買ったの、それ」
「うん、買った。どう、これ」
萌絵が全体を見せるためにその場で一回転する。
スカート部分がふわりと浮き、何も見えなかったけど、すこし恥ずかしい感じがする。
「似合ってると、思うけど、どうして?」
「練習のため。ほら、文化祭の出し物、メイド喫茶になりそうだから」
「まだ、決まってないけど」
「でも、多分、メイド喫茶になるよ。クラスのみんな、メイド喫茶にいきそうだからね。奈緒も覚悟していたし」
「確かに。あまりに一体になりすぎているからね」
僕はどうしようかな。
直哉から、「ぜひメイド喫茶に清き一票を」って頼まれたから、メイド喫茶に入れようかな。ある程度の人数がいたら。
「というわけで、おかえりなさいませ、ご主人様。こちらのお席へどうぞ」
萌絵に導かれるがままに、いつもの夕食の席に座る。
「本日のメニューですけど、オムライスしかありませんが、よろしいですか」
「はい」
「それでは、お持ちいたします」
「フフ」
ダメだ。
いつもの萌絵じゃない、丁寧な感じがツボに入ってくる。
「お待たせしました。オムライスになります」
萌絵が持ってきたオムライスは、崩れた様子が一切ない、素晴らしいものだった。
本当に萌絵って料理、上手だよね。
「それでは、ケッチャプで文字を書かせていただきますね。美味しくなーれ、萌え萌えキュン」
ケチャップでLOVEとハートの文字をかきながら、萌絵が魔法の言葉と呼ばれている言葉を言う。
うん、可愛かった。
特に、キュンが最高だった。
「それでは、お召し上がりください」
うん、これ食べるのか。
罪悪感が半端ないんだけど。
メイド喫茶に行ってる人って、よくこれを食べれるね。
「ふう、どうだった、メイドとしての私」
「良かったと、思うよ。ただ、いつもの萌絵を見ている僕からすると、丁寧語で話している萌絵が違和感が凄くて、笑いを堪えられなかった」
「それは、酷くない!!頑張って、菜緒を参考にしてみたのに」
あー、野田さんを参考にしてたのか。
「あと、マジであの魔法の言葉をやるの?あと、このケチャップの文字も」
「えっ、やらないの?私が見た動画ではやってたけど。もしかして、私の萌え萌えキュンダメだった?」
「いや、凄く可愛かったけど。流石にあそこまでのクオリティーは高校の文化祭では求めてないかな」
「うーん、難しいんだね。ていうか、優希はメイド喫茶になったら、何やるの?」
「何やるって?」
「だって、優希って、執事服は合わなそうな童顔だし、料理は下手だから、裏方もできないし」
優希は心にそれなりのダメージを負った。
だけど、萌絵の指摘はごもっともだと思う。
「何すれば、いいと思う?僕は、宣伝のプラカードを持って、練り歩くぐらいしかないと思っているんだけど」
「メイド服、着れば。クラスの男子の数人が、同学年の男子生徒には女装して出て行って、絶望させてやるぜって、意気込んでいたから」
「あー、直哉もテニス部来たら、女装コンテストの予行練習兼ねて、やるって言っていたけど。僕は無理。女装はNGだから」
「そういえば、幼稚園の頃に乙姫を発表会でやって、トラウマになったんだっけ。なんで、優希がやったんだっけ」
「覚えてない。僕の記憶からできる限り消してるから」
「私も優希が着物をきてたのは覚えてるけど」
「あー、思い出した。着物でトラウマなのにメイド服、なんて着たら、自殺レベルだね」
「ふーん、これでもダメ?」
萌絵が自分が着ている服を指差す。
「うん、もちろん」
「黒とかピンクとかはダメ?」
「この色なら着れるとかはないから。それに、黒のゴシックっぽいメイド服が一番ダメかもしれない。その場で血を吐いて、死ぬレベルで」
「ふーん、それでさ、さっきから、全くオムライスに手をつけないけど、お腹空いてないの?」
「この文字を消すのが、凄い罪悪感があって」
「いや、食べてよ。せっかく、作ったんだから!」
断腸の思いで、ハートを2つに割った。
ちなみに後日、萌絵の予想通り、メイド喫茶に決まり、メニューがドリンクとポップコーンのみになったので、僕も裏方として参戦できそうだった。
「優希にこの姿を独り占めさせることができた。それに、もう一つの作戦も進行中だし。フフ」
読んで頂いた皆さま方、まずはお読みいただき感謝いたします。
さて、感想、ブックマーク、そして、下の評価の☆を☆☆☆☆☆から★★★★★にしていただくと、作者は狂気乱舞するぐらい、とても喜びます。
是非、ご検討ください。
連載が止まった原因
金まで『テスト』
土、日『体調不良』
月『書き終わらず』
となっております。
楽しみにしてくれていた方々、申し訳ない。
ここまでの期間開けることはほぼないと思うので、これからもよろしくお願いします。