悪役女房役(れいじょう)契約(こんやく)破棄!~お前は正捕手にふさわしくないだと?~
ひさびさの短編投下します!
五年連続優勝の野球チーム、フォートランズ。
俺が部屋に入ると監督室には憤慨している男とニヤけた歪んだ顔を抑えられていない男がいた。
フォートランズの監督パスカールと今年のドラフト一位の天才捕手、パーサー、そして俺チームのベテラン捕手タロフ=ヤーマダ。
これは後継を育てろとかリードを教えろとかそんな話だろうか?
確かに俺も三十歳半ば。
身体のキレも鈍りバッティングでは若い頃のように打てなくなってきたが、リードはまだ若い者には負けていないと思っている。去年も最優秀捕手を取ったし、まだこの青二才に正捕手はやれない。
そう対抗心を燃やし軽くパーサーを睨みつける。
「タロフ、来たか」
「なんでしょう、監督」
「タロフ、聞いたぞ。お前パーサーに嫌がらせをしているだろう」
「……はい?」
は?嫌がらせ……?
意味が解らない。試合が無い日は朝から晩まで練習して泥のように眠る。
試合日には余計な事を考えず、ウォーミングアップしてコンディションを作り、ベストを尽くす。
ルーチンドールのような俺にはシリアライズに嫌がらせをする時間も意味もないんだが。
「……すまん、解りやすく頼む」
「監督には敬語を使え」
そういう監督に軽く舌打ちして言い直す。
「……申し訳ありません、言っている意味が解らないのですが」
「やれやれ、シラを切るか。どうしても認めたくないらしいな……」
「認めるも何も、私には意味不明なのですが」
「惚けるな!証人も居るんだ、入ってこい!」
隣の面談室の扉が開くと、そこには四人の男達が入って来た。
リーグ最多勝利の超速球派投手、うちのエースであるオージー
リーグ最優秀防御率の変化球投手、コシャーク
チーム一のWHIP……(※Walks plus Hits per Inning Pitched、投球回あたり与四球・被安打数合計)を誇る中継ぎ投手のハクシャーク
チームが誇る緩急差と落差の激しいフォークが武器のリーグ最優秀救援投手のダンシャーク
チームの要とも言える四人の投手が現れた。
「お前、階段からパーサーを突き落としただろう!」
オージーが俺を指して叫ぶ。
「……すみません監督。オージーがおかしくなったみたいですが」
そう言うとオージーは顔を真っ赤にして俺のプロテクターを殴りつける。
「惚けるな!パーサーが言ってたぞ!捕手の練習スケジュールを破いて練習させなかったり、階段から突き落としたり、俺達の球を受けるのは新人の癖に生意気だわきまえろ、とみんなの前で罵ったりしただろう!」
「そうだよ、オージー!酷いよね」
そう言ってパーサーとオージーは軽いハグをした後……吐きそうな程の濃厚なキスをした。
なんだコイツら……
しかし、嫌がらせねえ……嫌がらせ……。とんと見当もつか……
「……もしかして捕手の練習スケジュールを破いたって言うのは、お前が出した休みの多いスケジュールの事か?全部四時間以内の打撃練習とティーバッティングしか入ってなかったクソなスケジュールの事か?捕手の先輩としてあんな余裕だらけのスケジュールは認められないだろ。キャッチング技術も甘いしリードも甘いんだからそれを含んだ形で書き直せって破いた気がするが」
その一言で四人の投手達が嘘をつけ!と騒ぎ始める。
「階段から突き落としたって階段なんかベンチに上がる所の四段くらいの階段しか見た事ないぞ。そういえばパーサーが入ったばかりの頃、気合を入れようと背中を叩いたら滑ってこけて笑われてたが、あれか?」
パーサーが顔を引きつらせた。
「それなら俺達の球を受けさせないのはどういう事だ!」
「……その日に投げる投手の球を試合前に受けようとしていたから、ボールの伸びを見るためにレギュラー同士で受けるべきだと主張したが。試合が無い時にお前らが勝手に投げてパーサーが受けるならそんな事言わないけど、お前ら登板予定の試合日以外は肩を休めるから投げないだろ。軽いキャッチボールやハクシャークとダンシャークの肩慣らしを受けようとするのに文句を言った事は無いが」
そう言うとパスカールは溜息を付き言った。
「お前の言い分も解る。だがお前が居ると気分よく投げられないと彼らが言っている。四人の投手と引退前の捕手、お前が監督ならどっちを取る?」
「そうだ!お前は正捕手にふさわしくない!」
四人の投手が俺を非難し、続けた。
「婚約破棄だ。お前はチームに必要ない」
タロフ=ヤーマダはその日、引退した。
『フォートランズ、今年はどうしたんでしょうね?』
タロフはテレビを見ながら焼き鳥とビールの夕飯を取る。フォートランズは今シーズン、二十連敗している。
マウンドに上がったオージーが四球を連発していた。ここまで〇勝四敗。おそらく今日で五敗目だろう。
「どういう事だ!外角低めばっかりに構えて」
「どうもこうも、構えた所に投げてくれないですかね?」
オージーとパーサーが揉めている所を見て、多分そんな事を言っているんだろうな、と俺は推測して笑った。
「オージーは球は速いがコントロールが悪い。こういう時はど真ん中に構えていれば勝手に荒れてコーナーギリギリに入っていく。どこに行くか解らない荒れ球でも球威はあるから、好きに投げさせれば抑えられるのにな」
『オージー、フルカウントから第六球、投げた!外角低めに外れたぁ!また押し出しです!』
「今のはストライクだったな。外から内へ救い上げるように取ればストライクだが、内から外へミットが流れればストライクは取ってくれない」
キャッチング能力が不足してる、とタロフは焼き鳥を齧る。
『ここで投手交代です。オージーに代わりコシャークがマウンドに上がります』
「あー、ここでコシャークか。コシャークをここで使うのはダメだろ……」
『コシャーク、手痛い一発!甘いところに入ってしまいましたね!』
「コシャークはチキンだ。セットポジションだとランナーを気にしすぎるあまり手が触れず、変化しない。変化すれば外れてボールになるようなサインを出せば曲がりが甘くなって見送られやすくなる。ランナーを背負ってない時はきっちりそれが外れてくれるんだから、特性を知っていれば活躍できる投手なのにな。ギリギリに入る位置へのサインを出せば曲がりが甘くなって打たれるだろ」
『ここでハクシャークを投入してきましたね』
「ハクシャークか。コントロールは良いが決め球が無い。コーナーを突いてボール半分の出し入れで抑える投手だが……」
『フォアボールだぁ!』
「キャッチングが甘いパーサーだとストライクもボールだと言われるだろう」
『ここでホームラン!ハクシャーク打たれました!』
「そして決め球が無い分、リードをきっちりしてないと球を読まれて打たれる事になる」
『九回は誰が投げるんでしょうね。おっと、負け試合でダンシャークです!』
「ここまで全部打たれてるし新人の抑えと比較するだろうな」
『ボールフォアボール!ダンシャーク、押し出しで三失点!』
「ダンシャークのフォークボールは落差が激しく打ちづらい……が、フォークでは基本的にストライクが入らないんだ」
『ダンシャーク、また満塁にしてホームランを打たれました!』
「カウントを稼げるストレートとチェンジアップで追い込み、ストレートと変わらない速度とコースからワンバウンドするようなフォークを持つ投手だが、フォークを多投させて塁を埋めるような投げ方させるとこうなるよな」
『フォートランズ、今日も敗北です!それでは視聴者の皆さま、また次回放送でお会いしましょう』
ビールを飲みきり、タロフはゲップをしてテレビを消し、窓からフォートランズの球場を眺めて、呟いた。
「……ざまぁ!」
読んでくれてありがとうございました!
全然この話とは毛色が違いますが、三人称の慣れない感じで書いている連載、スピア・スフィア戦記も良ければどうぞ!
https://ncode.syosetu.com/n0676gm/
ありがとうございました!