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春日丘町のネコさん  作者: JUN
4/7

ゾンビ

 庭の隅を見て、タカミと近所の人が声を落として話している。

 思い出した。ハナちゃんのママとかいう人だ。ハナちゃんはチカの友人で、チカよりも多少すばしこい。しかしわたしを撫でるのが乱暴で、優雅さに欠けるがさつなやつだ。

「ここ、この前死んだ金魚を埋めたのよ」

「お祭りの?」

「そう。金魚すくいでとったやつ」

「野良猫か何かが掘り返したのかしら」

 金魚を埋めた辺りを掘り返した跡があり、土と金魚のエサが辺りに散っている。

「まさか、ネコちゃん?」

 失敬な。

「にゃっ」

 抗議の気持ちが伝わったのか、タカミは

「ごめんね、違うわよね」

とわたしの機嫌を取って頭を撫でた。

 ついでにハナちゃんが手を出そうとしてきたので、わたしは慌ててブロック塀の上に避難した。

「ああ。ネコちゃん!おいで!ピーマンあげようか」

 いらん!それはハナちゃんがきらいなだけだろう。

「自分で食べなさい。お弁当、残さないでね」

 ママに笑顔で釘を刺され、ハナちゃんとチカは、ママとタカミに手を引かれて幼稚園に向かった。

 さて。わたしはタケさんのところに行く事にした。膝が痛いのはもう治っただろうか。


 タケさんは花の咲いた庭を眺めていたが、わたしの姿を認めると、よっこらしょと言いながら笑顔で立ち上がり、マグロを持って来た。タケさんは魚屋で、きれっぱしをよくくれるのだ。

「美味いか、ミケ」

「にゃん」

「たくさん食べろよ、ミケや」

「うにゃあ」

「ばあさんにもあげとくか。なんまいだ」

 タケさんはお茶を2つ淹れて、片方を仏壇に上げ、ついでにかりんとうを下げて、何本かをわたしの皿に入れた。

 タケさん家の猫になってもいいと思える。

 ただし、タケさんの貼る湿布の臭いと灸の火と煙が困りものだし、どんくさいチカの面倒を見てやらなければならない。

 わたしはまた来ると言い残して、巡回に戻った。


 午後になってチカが帰って来ると、すぐにハナちゃんが来たので、わたしは素早く逃げ出して台所に行った。

 台所では、タカミとハナちゃんのママが話をしていた。

 キャベツの値段がどうの、幼稚園の何とか先生をこの前見ただの、延々としゃべり続けている。そして新作映画のホラー映画の話になって、ようやく、本題になる。

「庭の土が掘り返したようになってたでしょう?あれ、何だと思う?」

「まさか、掘り返したんじゃなくて、中から出て来たなんてことはないわよね」

「中から?」

「つまり、あれよ」

「ゾンビ……?」

 2人は顔を見合わせたまま、想像するように黙っていたが、ややあって、騒ぎ始めた。

「そうかも!どうしよう!?」

「金魚のゾンビなんて聞いた事無いわよ!?」

 ゾンビというのは、動きがチカ以上にどんくさい妙な生き物だろう?わたしは以前、テレビで見た。

 とろとろと動いて、ヒトに襲い掛かってかぶりついて狩りをするやつだ。

 しかし、魚がどうやって土の下から這い出て、襲うのだ?魚と言う奴は、水の中にいるか、皿の上にいるかだろうに。

「金魚の死体は無くなってたの!?」

「怖いから見てないわよ」

 やれやれ。仕方が無いな。タカミはいつも、勘違いして大騒ぎするのだ。

 わたしは立ち上がると、ぴょんと水槽の置いてあった棚の上に飛び乗った。

「あら、ネコちゃん。もうお友達はいないのよ」

 チカが言うが、誰が友達だ。あれはわたしの、非常食だったのだ。

「にゃん」

「ネコちゃん、いい子」

 ハナちゃんがいそいそと立ちあがったので、急ぐことにして、ピシリと尻尾でそれを打った。

「あ」

「あらあら」

 落ちた金魚のエサの袋を、タカミが拾い上げ、

「ん?」

と首を捻った。

「どうしてこんなに減っているのかしら?」

 タカコは、ぼおっと見上げるチカに目を向けた。

「チカ、知らない?」

「金魚にあげた」

「そうね。でも、金魚をお墓に埋めた後よ」

「金魚にあげた」

 タカミとママは、チカを見て考えた。

「魚屋さんのおじいちゃんが、死んだおばあちゃんにミカンとかお饅頭とかあげてたから。金魚もお腹空くかと思って」

 タカミとママは、一気に体の力を抜いた。

「もしかして、チカ、金魚のお墓、掘ったの?」

 チカはコックリと頷いた。

「どの辺か忘れたから」

 やれやれ。

 やっと金魚のゾンビではないとわかったタカミとママが笑い出すのを聞きながら、わたしは尻尾を掴もうと必死のハナちゃんの猛攻を躱し、外へ飛び出したのだった。

 世話の焼けるタカミだ。





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