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006 間話 「魔法使い、自分の過去を思い出す2」

「じゃあアルク、準備はどうだ?」


 装備を整えたガイラックは、カウンター前で僕に言う。

 その周りには、かなり前から一緒にパーティーを組んでいるという女性のエレンと、僕が入る少し前にきたらしい同じく女性のノルンがいる。

 僕は、三人によろしくお願いしますと言って頭を下げたあと、装備を確認する。


 護身用の小さなバックラーと、魔物の解体用ナイフ。

 バックラーは新調してもらったけど、解体用ナイフはなにやら特殊な魔法が付与されているらしく、ノルンのお下がりをもらった。

 外見的には、刃にギザギザはないけど、その分厚みがあるなどといった感じだ。


 そうやって確認を終えた僕は、ガイラックに言って早速依頼を受けてもらう。

 その内容は、この街のダンジョンで出来る限り多くの資源を持ち帰ること。

 僕にとって初めての依頼ということもあってか、とても緊張する。

 その依頼は翌日からということで、その日はそれぞれ休むことにした。





―◇―◇―◇―◇

翌日、ダンジョンにて





「じゃあ、行くぞ」


 朝日が出て数刻、まだ空気がひんやりとしているころ。

 ダンジョン前まできた僕たちを束ねるように、ガイラックは先頭に立って言う。

 他の僕を含めた三人は、彼の言葉にうなずく。

 そうして僕たちは、暗い洞窟のようなダンジョンの入り口に足をかけ、なかに入った。


「お前ら、周りに気をつけろよ。このなかじゃ、いつ魔物が襲ってくるかわからない」


 ガイラックは、背中に背負う大振りの両手剣を引き抜いて肩に担ぎ、後ろ目で睨むように言う。

 その鋭い眼光は、僕たちの心配をしているというより、自分に迷惑をかけるなという風にとれた。

 しかし、彼はこのパーティー唯一の戦士なのだから、ヘイトを集めなければいけない。

 だけど、そこで余計な体力を使いたくない、というのもまた彼の思いなんだろう。


 それだけダンジョンは危険らしい。

 僕は初めてだからよくわからないけど、エレンはせわしなく目を辺りに張り巡らして警戒しているし、ノルンは常に杖を前方に構えて魔法を直ぐに使えるようにしている。

 そこで僕ときたら、邪魔にならないように少しでもパーティーに貢献する雑用役だ。

 ガイラックが注意するのも仕方がない。

 僕は、なにか他に自分のできることを捻り出そうとして、あることを思いついた。


「――せめて、回復している最中の無防備なノルンのことは守らないと!」


 なぜ僕がそう思ったかというと、治療術師が治療魔法を使っているときは行動することができないからだ。

 それは、治療魔法の特性にも関係あるんだけど、治療魔法というのは対象の傷を魔力を癒しの力に変換して癒す。

 それだけに、それ相応の集中力を必要として、他のことに気をさく余裕はない。


 だから僕は、そこに役割を見いだした。

 そのために、ガイラックの後ろに付き添うように歩いていた僕は、ノルンのいる後方に下がろうとする。

 そう考えて後ろを向いたはいいけど、そのすぐ後ろにいたエレンにぶつかりそうになり、慌ててからだを横にそらした。


「危なぁっい!」


 エレンは、それでも気を緩めずに歩みを止めない。

 いや、今のことは僕がわるいんだけども、それでも止まってくれないと彼女のつがえた矢が僕に刺さる可能性がある。

 まあ、彼女にとってはそんなことどうでもいいんだろう。

 彼女は、ガイラックにずっとベッタリで、僕に感心を寄せることはないしね。


 思いながら地面に伏すように倒れそうになる僕は、壁に手をかけて顔面から着地するのを回避しようとした。

 しかし、壁にかけた方の腕がぐいっと引っ張られ、振り子運動をするように僕の顔は壁に激突した。


「あいたぁっ!?」


 鼻の上側にある骨に、鼻血が出るときと同じような痛みがはしる。

 恐る恐る鼻の下を指でなぞってもなんともないので、血は出ていないとわかった。

 それよりもわからないのが、今僕が壁にぶつかった理由だ。

 僕の指がなにかに挟まっている気がするけど、からだを壁にそってきちんと起こす。


「やっぱりくぼみか……。ガイラックの言ってた通り、ダンジョンっていうのは油断ならないなぁ」


 そこには、指が一本入るか入らないか程度の小さなくぼみがあった。

 僕は、よくこんなところに指が入ったなぁと驚きつつも、運よくあったそれに感謝した。

 そして、なかでなにか引っかかってしまうかもしれないとゆっくり指を抜き、怪我がないか確認する。


「大丈夫……だよね。よかったぁ」


 僕は安堵して、からだの力を一気に抜いた。

 ぺたりと地面に膝をつけるけど、そんなことを気にする余裕は僕にはない。

 そして僕は、ガイラックたちがまだいるかを確認しようとして、進む方向の通路を見る。

 そこには彼らがいないはず、そう思っていたのに――――


「おいアルク、最初にお前に気をつけろって言ったよな?」


「え、いや……」


 先に行ったはずの三人がそこに戻ってきていた。

 ガイラックが二人の前に仁王立ちするように立ち、エレンはその後ろで忌々しそうに眉間にシワを寄せている。

 その横ではノルンがなにかわたわたとしているけど、恐らく彼らを止めようとしているんだろう。

 この雰囲気ならそれは無理だろうから、大人しくしていた方が利口だというのに。


「ごめんなさ……」


 僕は全力で謝ろうとした。

 わざわざ声をかけてくれた彼らの希望に答えるどころか、邪魔をしてしまったのだから。

 当然ながら、言い訳なんてすることは許されない。

 しかしそれは、ある音によって遮断されて叶わなかった。


 ゴゴゴゴ……という岩どうしがすれる音が地面を揺らし、彼らの注意を完全に僕からはがしたからだ。

 まさかこのタイミングでイレギュラーな事態が起きるとは思わず、僕は焦りながら立ち上がって盾を構える。


「ど、どこに魔物が?」


 戦士であるガイラックなら、その研ぎ澄まされた感覚で魔物の居場所がわかるはず――そう思った僕は、迷わず彼に言う。

 

「おい、嘘……だろ?」


 しかし、彼の反応は僕に向かってのそれではない。

 視線も僕の方には向いているのだけど、僕のことを見ていないような。

 つまりだ、この状況から察するに、僕の後ろになにかがいると考えるべきだろう。

 それも、ガイラックの驚きようから察するに相当な強さか、危険度が段違いに高いもの。

 今もゴゴゴゴ……という音と揺れは続き、一層僕の心を不安にさせる。


 なにがそこにあるのか、この音と揺れの正体はなんなのか、そういった疑問を解決しようとするには振り向くしかない。

 だから僕は、なにがあってもおかしくないなと覚悟をして、勢いよく振り向く。


「――――んなっ!?」


 一瞬でそのおかしさに気づいた僕は、思わず声を出してしまった。

 なぜなら、そこに本来あるはずの壁がきれいになくなり、さっきはなかった階段が出現していたから。

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