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005 間話 「魔法使い、自分の過去を思い出す」

「だけど、なんだかんだで楽しかったなぁ」


 僕は、ぼそっと小声で呟いた。

 それは、僕がティニアスに追放されたことについて話しているときのこと。

 僕はふと、明けの明星に入れてもらったときのことを思い出した。

 そのときは、今よりさらに役に立たない冒険者に成り立ての頃だった。




―◇―◇―◇―◇

遡ること、アルクが明けの明星に入る前





「これが僕の冒険者生活の第一歩か。ふぅ、緊張するなぁ」


 僕は、そのときもこのギルドハウスに来ていた。

 理由は色々あるけど、ここらでは一番稼ぎがよく、名も上げやすいというのが大きいかった。

 そして、僕は緊張に体を強張らせながら、慣れない手つきでギルドハウスの扉を押す。

 すると、最初はギーーという甲高い音がしたけど、止まるのも怖いので目をつぶり、一気に押し開いた。


――中から漏れでる酒の臭いが、未成年の僕の敏感な鼻を刺激する。

 それだけではなく、楽しそうにガヤガヤと騒ぐ声も耳に入り、肥大した好奇心からたまらず目を開ける。


「うわあぁ、すっごい……」


 そこで目にしたのは、大量の冒険者たちが酒を飲み交わし、歌え踊れのどんちゃん騒ぎをしているところだった。

 なにを祝っているのかがわからない僕は、一人取り残された気分だ。

 気になった僕は、周りの視線を気にしながら小走りでカウンターへと向かう。

 そこには、紫色の光沢を放つ髪をした女性ギルド職員がいた。


「あのー、僕は冒険者登録をしに来たアルクという者です」


「私は、このギルドハウスの副マスターを務めさせていただいています、ベイシアと言います。以後お見知りおきを。それで、冒険者登録の件ということでよろしいですね?」


「はい、そうです」


 随分と偉そうな人がカウンターに立っているものだと、僕は驚いた。

 なんでかと言えば、僕の予想では下っぱの人が相手をする業務だと思っていたから。

 それだけに、大層な肩書きを持つ彼女は、よりすごい役職に就いているような錯覚すら覚える。


「では、こちらの用紙に必要事項を記入してください」


「ああ、わかりました」


 僕は、ベイシアさんの話に流されながら、紙とペンを受け取った。

 いやいや、僕がしたいことは他にもあるんだよ。

 紙とペンを一旦下に置いた僕は、奥に行こうとした彼女にすみませんと一声かける。


「今日の皆さんは、なんでこんなに騒がれてるのでしょうか?」


 言うとベイシアは、さっと振り返って僕の顔を見る。


「あっ、ギルドハウスに来るのも初めてなのですね。ここは、いつもこんな感じで賑やかなんですよ。皆さん、とても明るくて面白い方ばかりです」

 

 言ったベイシアは、僕の視線から逃れるようにニコッと営業スマイルをかまし、奥の方へ去っていった。

 これは、人に聞くより自分で体感した方が身に付くというスパルタ式教育なのかもしれないと思った僕は、若干震えた。

 まあ、さすがにこれっきりってことはないんじゃないかと思うけど……思うけど!

 うん、多分大丈夫だろう。


 そんなことを考えているうちに紙への記入は終わり、別のギルド職員に渡して登録は完了した。


「さてと、次は依頼を選ばないとならないんだよね」


 僕は、視線をカウンターから横にずらす。

 そこにある大きな掲示板には、大量の依頼書が乱雑に張られている。

 カウンターの奥にも、まだ未処理のものとおぼしきものが山のように積まれていることから、実際の依頼はこんなものではないんだろう。

 そのなかでも、比較的難易度の低くて、報酬の豪華なものを選びたい。


「って言っても、討伐依頼ばっかだよ。これじゃあ、パーティーに入るしかないんじゃないかな」


 僕一人では、討伐依頼をこなすことは不可能だ。

 普通に考えて、冒険者になったばかりの者にそんな実力があるわけがないし、僕は少しわけありなんだ。

 だから、それを了承してもらった上で入れてもらわなきゃならないんだけど……絶対難しい。


 それで僕は、むーっ、むーっ、と唸る。

 しかし、僕はどれだけ考えてもパーティーに入らなければ生きていけない気がする。

 少し大変だけど、パーティー募集の貼り紙も探すかなあ。


「おい、ちょっといいか?」


 そんなときだった、彼が声をかけてくれたのは。


「あなたは?」


 全く初対面の彼に、最初は僕も動揺した。

 しかし、彼の作り出す軽い空気で直ぐに打ち解けることができた。


「俺の名前はガイラック、パーティー明けの明星のリーダーをやってる。それで、早速なんだが…………見たところ、パーティー選びに困ってるんだよな?」


「そうなんですよ。僕を受け入れてくれそうなところを探さなければいけなくて、作業が難航していたところです」


「それならちょうどよかった。どうだ、俺らのとこにこないか? 今なら空いてるぞ?」


 僕は、その瞬間に固まった。

 わざわざこの僕を誘いにきてくれるだなんて、思っても見なかったからだ。

 もちろん断るはずがないので、その返答にはいと答える。


 僕は、その一呼吸あとにですがとつけ加える。


「僕は、魔法使いですが魔法を使えません。ですので、雑用をやらせていただきたいです」


「……魔法を使えない? まあいい、それでも多少は戦闘に役に立てるだろ。それと、戦えない分の雑用は任せたぞ」


「はい!」


 よかった、認めてもらえて。

 話している最中、これで見限られてしまったらと思って、脚が震えっぱなしだった。

 それと、最低限でも魔物の注意を引き付けたりはできる――と思う。

 魔法は使えなくても、やれることはいっぱいあるんだ。

 そのことに僕は胸を膨らませながら、パーティーに入ることができた嬉しさに歓喜した。

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