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004 「魔法使い、手続きをする」

「では、現在所属しているパーティー、明けの明星の脱退登録を行ってよろしいのですね?」


 ギルドの制服を着た若いお姉さんが、艶々な唇の間から漏れ出る深く透る声で話を進める。

 彼女は、冒険者協会、別名冒険者ギルドのネイロン支部職員の一人だ。


「はい、よろしくお願いします。あ、僕がやることってありますか?」


「えーとですね、ここに指定された情報を記入してください」


 そうして差し出されたのは、一枚の薄っぺらい紙だった。

 裏は白紙で、表面のみに文字や記入欄が書かれている。

 特筆すべきは、この一枚一枚が職員の手で書かれているということか。

 そのため、職員によっては記入欄を減らしたり増やしたりするらしいけど、登録には影響ないらしい。

 なんでも、ここに書かれた一部の情報を暗号化して全冒険者が記されたリストに張り付けたり、その情報と照らし合わせるだけなので、少なくとも多くとも変わらないんだ。

 ならそんなに書かなくてもいいんじゃないかと思うけど、形式的な物だから仕方ないと割りきるしかないだろう。


「えーと、名前はアルク……」


 そこで僕の筆は止まった。

 その先を書くのは、かなり躊躇われるから。

 書くべきなのかもしれないが、今は飛ばしておこう。


「次に、所属する予定のあるパーティー名を、か」


 呟くと、後ろに威圧されているくらいに重い気配を感じた。

 その気配を放つ主にトントン、と肩を叩かれて振り向くと、やはり彼女だった。


「パーティー名を決めるのですわね?」


「そうです……あ、あの、敬語やめても良いですか? 話しずらくて、戦うときだけでもいいので」


「そんなの、気にすることは無いですわよ! あ、失礼。私としたことが、名前も名乗っていませんでしたわね。私の名前は、ティニアス・ゼ……ゴホンッ、ティニアス・エイロンですわ。遅くなりましたが、よろしくお願いしますの」


「なるほど、ティニアス・ゼ……ゴホンッ、ティニアス・エイロンさん。随分と長い名前だけど、立派だね!」


「い、いえ、ティニアス・エイロンですわ! 途中で間違ってしまったので、言い直したんですの!」


「分かってるよ、ふふっ。で、どうしようか?」


「私としては、あなたが決めたものでよろしいですわ。別にこだわりはありませんし、これがいいというものもないですからね」


「じゃあ、そうだなぁ……」


 僕もとくにこだわりはないんだけど、ここで決めないといつまでも決まらなそうだしなぁ。

 ここは、最大の悩みどころかもしれない。


「そうだ、宵の明星はどうかな?」


 パッと思い付いたのがそれだ。

 特に考えることもなく口に出してしまったけど、アイデアの一つとして見ればいいか。

 なんならやめればいいし、どんどん出すべきだな。


「なんですの、それ?」


「ああ、ティニアスは知らないんだね。僕の元々いたパーティーの名前になっている明けの明星っていうのは、お星さまのことなんだ。それも、朝早くに見えるもので、その反対の意味を持つのが宵の明星」


「つまり、夕暮れ時に見えるってことですの?」


「そうなるね。そして、その名前を付けた理由が、彼らの場合は早く強くなって注目を浴びたいから。僕の場合は、ゆっくりでもいいから確実に力を付けて、日の目を見ることがなくても目的を達成できるように、ってとこかな」


「まあ、素晴らしい考えですわ! 私たちのパーティー名は、それで決まりですのよ!」


「分かった。じゃあ、書き込むね」


 思ったより、ティニアスの食い付きが良かったな。

 星の話なんてしても興味ないかと思ったんだけど、嫌いではないらしいね。

 ……だけど、本当に意味を分かってるんだろうか。

 心配だけど、彼女であれば不満を漏らされるようなことはないだろうから、まあいいよね。

 

「次は、冒険者としての職業、ランクか……」


 職業は魔法使いだけど、魔法が使えるわけじゃない。

 ランクは、


 世界を滅ぼせるクラスのS+。

 命をかけて世界の仇敵を倒せる英雄クラスのS。

 国で最も実力の高いクラスがA+。

 一人で都市を貶める程の力を持つクラスがA。

 ある強大な魔物を多く倒し、◯◯キラーや◯◯殺しと呼ばれる称号を手に入れるクラスがB+。

 ギルド支部の各々のギルドマスターと呼ばれる役職に就いているクラスがB。


 と、分かれていく。

 それからは、ギルドから発行された依頼をどれだけこなし、どれだけ難しい依頼をこなしたかによって変動してくる。

 ちなみに、一般人ならば全十段階の内の下から三番目の、Cランクが限界だろう。

 それからさらに上げていくとなると、魔獣と呼ばれる魔物の特殊個体を倒す必要が出てくる。


 一応僕は、パーティーとして受けた依頼の数は多いのでC+ランク。

 どんな魔獣を倒したのかといえば、ダンジョン中層以下に稀に出現するキングオーガというオーガの上位種だ。

 オーガ単体でも上層の魔物より数段強いのに対し、キングオーガともなれば最早Bランクの人がいてようやく倒せるくらいだ。

 元の僕たちのパーティーはその活躍もあってか、僕を除いた全員がBランクへと昇格した。 


 なんだかなぁ……。

 まあ、C+もランクがあれば報酬額がそこそこ上がるから生活はできるんだけど、少し残念な気持ちもするよね。

 なんたって、ランクというのはギルドからの信頼を表す指標ともなっているからだ。

 ランクが高ければ高いほどギルドに貢献したことになるから、そうなるのは当然と言える。

 それよって報酬額が優遇されるなどのサービスもあり、ランク上げのために無茶な依頼を受けようとする者も多い。


 しかし、ギルド職員にはそのような行動を規制するという役割もある。

 依頼を受ける度に全冒険者リストを見てランクと依頼の達成率を確認し、最低限の条件を満たしていない場合は受けることができない。


 このようなきちんとした規律が整っているのは、ギルドの良いところであると言える。


「で、所持称号? そんなもの僕が持ってるわけがないじゃないか」


 称号は、栄誉を称えて国などから表彰を受けることだ。

 それによって、冒険者ギルドではランクを上げたりすることもあるらしい。

 この欄は、そういったことの確認のためでもあるのだろう。


「無視して飛ばしてっと、最後は……違約金の徴収!?」 

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