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015 「魔法使い、魔法を体感する」

「軌道、風力共に問題はないようじゃから、行くのじゃ!」


「「はい!」」


 リヴィが言うと、僕とティニアスは声を揃えて返事をする。

 その瞬間、体がふわりと揺れた――と思ったら、遥か上空へと打ち出されていた。


「う、うぁぁ!?」


「なんじゃ、お主は怖じ気づいたのかのう?」


「いや、そう言うんじゃなくて、具合が……」


 初めて経験する気持ち悪さで、僕は口もとを押さえた。

 腹部を圧迫されるような感じで、胃の中身が段々とせり上がってくる。

 そればかりか、安定しない風の足場に心許なさもある。

 ということで、僕の今の状況はかなり最悪だった。


 ティニアスはどうなのかと心配をして見るけど、平然と風を操作していた。

 その様子を見るに、操作をしている人はうまく風を操ってこうならないようにできるんだろう。

 どうにもできない、と言えばそれまでだけど、やはり羨ましい。


「もう少しじゃし、少し速さを緩めるかのう」


 リヴィは、僕のことを見て仕方なさそうにそう言う。

 ごめん、本当に僕役立たずじゃん。

 そう思いながらも、コクンとうなずく。

 すると、多少は速度による酔いがよくなった。

 あくまで多少、なんだけど、今の僕にはとても嬉しい。

 

「ようし、お主、歯を食いしばるのじゃ」


「え?」


 僕は、リヴィがなにを言っているのか全く理解できなかったかけど、言われた通りにした。

 すると、いきなり体をおおっていた風が消え、僕の体は空に放り出された。


「風よ、妾が力にて具現し、妾が命にてかの地面での衝撃を緩めたまえ。――――エアクッション!」


 僕が声つく隙もなく、そうリヴィが魔法でカバーしてくれた。

 風が地面から垂直に僕の体に当てられ、重力に従いつつ少しずつ勢いを落として着地する。

 その結果、特に痛みもなく地面を踏むことができた。


「剣聖なのじゃから、この中で一番身体能力が高いであろうにのう」


「ごめん、それとありがとう。本当に助かったよ」


「まあ、妾がお主がそこまですることをやったかと言えば首を縦には振れないのじゃが、感謝されているのならありがたく受け取っておこうかのう」


 リヴィは、少し顔を赤らめながら僕との目線を少しずらす。

 僕が言えることではないけど、彼女はどうも素直ではないようだ。

 チラチラと何度かこちらを見る様子や、その度にさらさらと舞う髪の毛がなんとも愛らしい――――っと、僕は幼女趣味ではないのでここまでにしよう。


 だけど、それを抜きにしても彼女は可愛い。

 なんで封印されたのか、本当に気になるところ。

 宿を借りたら、そこで教えてもらうとするか。


「それと、ここは穴の続いていた場所の一番上じゃ。ここから先の行き方は妾にはわからんから、お主かそなたが先導してくれると嬉しいのじゃ」


 言ってリヴィは、僕とのティニアスを指す。

 行きの道を戻ればいいだけだから、どちらでも道は知っている。

 だけど、魔物と遭遇したときの武器の有無を考えたら僕が先導するべきか。


「僕がやる。そんなに入り込んではないけど、二人ははぐれないようにして」


 そこからしばらく、僕は二人がついてきているか確認するために振り返りながら、着実に歩を進めた。

 途中でオークやスケルトンといった魔物に何度か遭遇したけど、僕が斬るかリヴィが魔法で撃退したから怪我もない。

 そして、上層も終わりに近くなり、外の空気が少しずつダンジョン内の空気と混じり始める頃。

 僕は、異変を感じ取った。


「……魔物?」


 否、それは普通の魔物ではないと思う。

 なぜなら、感じる魔力が膨大。

 この階層で感じ取れるということは、この階層にそんな魔物がいるわけがないので、恐らくダンジョンの外にいるということだ。


 つまり、距離がそこそこあるのにそこまでの魔力を感じられるのだから、トロルの特殊個体よりも強いということを示す。

 同時に、強い魔物は索敵も上手いので、ダンジョンの近くで必ず遭遇するというお節介つきだ。

 それだけの問題があれば、僕が行動するには十分な理由になる。


「ティニアス、僕は先に行ってなければダメみたい。リヴィ、僕のいない間ティニアスのことをよろしく頼みます」


「待って、アルクさん。一体なにをするんですの?」


「そうじゃそうじゃ、自分だけ、早くここから出ようだなんて考えは捨てるのじゃー!」


 二人がガヤガヤと嫌そうにするけど、僕だって嫌ださ。

 できれば相手にしたくないけど、どうせ戦わなきゃいけないのなら早い方がいい。

 それも、二人が来る前の方が被害は押さえられると思う。


「それでも行かなきゃならない。ごめん、二人共。また後で」


 次も会えるという確証はないけど、会うと誓う。

 そうすることで、僕の心の中に戒めとしてそれが残ればいいかなと思ったから。

 いいや、戒めなんて決められるものじゃないか。

 僕の原動力となるように、それを誓ったんだ。


「ごめんッ――」


 僕は、後ろ髪引かれる思いで走り出す。

 まだ二人がなにか言っている声が聞こえる。

 追いかけてきているのがわかる。


 それでも、絶対に振り返ってはいけない。

 そんなことしたら、もう走り出せなくなるから。

 ぐっと唇を噛んでこらえ、右手に現れた階段に飛び込む。


「ここまで来れば、もう諦めるだろう」 


 僕は、肩ではあはあと息をしながら、階段の横の壁にもたれかかる。

 そして、自分の走った距離を考えて驚いた。

 さっきは十分以上かかった道が、一分もかからずに走れるなんて、きっとこれも剣聖の力なんだろう。

 初めて剣を握ったさっき、覚醒したらしい力。


「改めて、すごい……! 体が軽いっていうか、余分な力が入らないから動きがしなやかになっているし、全力で走ってもそこまでどっと疲れない」


 それを認識した上で、一度は止まったものの、また走り出す。

 すると、前との感覚がやはり段違いだった。

 階段を上がりきるまで立ち止まらずに走り続けたけど、それでもバテない体力。

 僕は、興奮しながらダンジョンの出口へと近づいていく。


 それから、ものの数分で外の光を浴び、発汗した体に当たる風が気持ちいい。

 後ろには、今しがた出たダンジョンの入り口がある。

 洞窟というか、遺跡のような雰囲気が醸し出ていて、危険な臭いがぷんぷんする。

 よくこんなところに入っていけたな、と自分に感心しながら、深呼吸を一つし、魔物探しを始めることにした。

 だけど、空気に含まれている魔力量が異常に多く、魔力に関して適正が低い僕には辛かった。


「うう……魔力酔いしそうだ]


 魔力酔いとは、強い魔力に当てられることで体が勝手に起こす、馬車酔いみたいな反応のことだ。

 具体的には、体内の食べ物が原因かもしれないからと、胃の中身を外に出そうとすること。

 または、魔力を操作する脳に不具合が生じているかもしれないからと、大量の魔力が脳に集中することなどで症状が出る。

 僕の場合は、前者。

 まさにこの瞬間に、胃の中身をぶちまけそうになっていた。


「早いとこ魔物を見つけないと……うぷっ」


 僕は、一歩も動いていないのに酔いが酷くなる。

 つまり、魔物が近くなっている証拠だ。

 このまま待てばどうにかなる気もしないではないけど、二人に遭遇させる前にどうにかしなければならない。

 そう思った僕は、気分の悪い体を押して走り出す。


「――くそがぁっ! エレン、どうにかならないのかよ!」


「わ、私たちだけじゃあ、こんなのに勝つだなんて無理よ!」


 気のせいか、遠くから明けの明星のメンバーの声が聞こえる。

 しかし、やけに明瞭なその声は、焦っているように聞こえる。

 おかしいなとは思いつつも、僕はダンジョンが影になって遠くが見えないため、離れて声のする方へと向かう。

 すると、聞こえた声が本物だったと理解させられた。


「……やっぱり、か」


 見慣れた三人が、大きな黒いドラゴンと戦っていたから。

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