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014 「魔法使い、脱出大作戦」

「その通り、この応えが聞きたかったんじゃ。聞いたか、お主。妾の魔力は、常人のそれとは違う。つまり、妾とお主の父は比べようがないのじゃ」


「比べようがないって……今目の前で見ている、魔法はどうなるんです? それがなによりの証明となるのではないですか?」


 先程から何度も言うが、僕の目の前には幼女が造りだした火球がある。

 それは、父さんのものより数段大きく、含まれている魔力量も尋常ではなさそうだ。

 比べられないことなんてないだろうに、比べようがないだなんてわけがわからない。


「ほう、つまりお主は、同じ土俵に立っていない者と自分を比べるのじゃな」


「そんなことしませんし、今の話となんの関係があるんですか?」


 そもそも僕は、君と同じ土俵に立っていないんだよ。

 魔力は、宿っているものに触れれば感じることはできるけど、離れているのに感じるのはほとんど無理。

 大きなものなら感じられるけど、小さなものなんてとても……。

 だから、話を噛み砕いてついていくのがやっとなんだ。

 できるのなら、もう少しわかりやすく説明をしてもらいたい。

 そういう思いで、幼女に質問をする。


「そのまんまじゃよ。お主の父と妾の魔力は別物であるから、そもそも比べることができないということじゃ。だから、どちらが強いとか弱いというのをはかることは不可能ということになる」


「そんな都合のいい理屈があるのなら、この世界に優劣だなんてものが存在してませんよ。不条理でも、不平等でも、生まれた瞬間に全ては決まってしまうんですから」


 そのせいで僕は、一切魔法を使うことのできなかった人生を歩んできたんだ。

 これからもそうなるかもしれないし、もしかすれば使えるかもしれない。

 だけど、やっぱりそれは生まれたときにすでに確定してしまっているんだ。

 その時点で、優劣はついてしまうんだ。


「確かに、全て決まってしまうのは事実じゃ。じゃが、お主がお主の父を越えるというのは魔法でなければいけないのかのう? それが剣でも、おかしくはないと思うのじゃ。確かに魔法と剣には明確な違いがある――――が、妾の言ったことではなく、お主の言うお主の父を越えるということならば、それは可能であるハズじゃ」


「確かに、剣でも人は救えるし、父さんのことも越えられる。ですけど、やっぱり魔法がいいんです」


 剣やその他諸々で同じ土俵に立てるなら、それもいい。

 だけど、戦うべきは魔法でだろう。

 正々堂々と、魔法で越えたいんだ。

 父さんがいつも使っていた魔法で。


「ふむぅ、お主は中々頑固じゃの。そんなに言うのなら、妾が魔法が使えるように色々試してみてやるかのう」


「ほ、ほんとですか?」


 幼女に色々してもらえれば、もしかしたらすごい魔法を使えるようになるかもしれないぞ。

 せめて初級ぐらいでも、繰り返し使うことで強くなれるらしいから、ものすごく嬉しい。

 やっと、この手で魔法を使えるようになるかもしれないんだ、期待に胸が膨らむ。


「うむ、妾は嘘はつかん。その代わりじゃが、見たところお主らはパーティーであるのじゃろう? ならば、妾をそこに入れてほしいのじゃ」


「そういうことなら……ティニアス、大丈夫かな?」


 そのぐらいなら、ティニアスが大丈夫であればなんの問題もない。

 僕は、よほどのことがなければ反対はしないからね。

 むしろ、僕たちは来てくださいと頼む立場なんだ。

 相手から来てくれたのは、大変嬉しい誤算である。


「アルクさんがいいのならば、大丈夫ですわ」


 ティニアスも了承したので、これで幼女のパーティー加入は決定だ。


「じゃあ、よろしく頼みます」


「うむ、妾の名はレヴィであるから、忘れないでほしいのじゃ。こちらこそ、よろしく頼むぞい」


 レヴィは、火球を握りつぶすように消し、僕とティニアスに会釈しながら軽く挨拶をしてきた。

 ティニアスも、「よろしくお願いしますわ」と挨拶をする。

 その流れにのって僕も挨拶をしようかと思ったけど、先に言ったからいいだろう。


「そう言えばなのですが、なんでレヴィさんは封印されていたのですか? まだお若いようですし、不思議ですわ」


 突然始まったレヴィへのティニアスの質問には、僕が抱いていたレヴィへの疑問も含まれていた。

 レヴィを若いって言うのには幼すぎる気がするし、かといって歳を召しているようにも見えない。

 言うならば…………幼女、その一言。

 やはり、何度見てもこの考え方は変わらないみたいだ。


「それはじゃなぁ、話せば長くなるがいいかのう?」


「いえ、まず先にこのダンジョンから脱出しましょう。でないと、そろそろトロルの血の臭いを嗅いで他の魔物が寄って来る頃合いですし」


 そうだ、決して長い話を聞きたくないというわけじゃなくて、仕方がないんだ。

 今は危険だから、また今度。

 いつかは絶対聞こう、僕はそう心に決める。


「つまり、この穴の上に上ればいいんじゃな?」


「そそ、そうですけど、ここを上ることなんて――」


 僕は、いきなり話しかけられて、心の声が聞こえているのかと思ってしまった。

 彼女のことについて考えてたのは本当だけど、悪いことは考えていないかは大丈夫かなぁ?

 魔法ならなんでもできそうだし、その辺りはいつか調べておかないと。


「なんじゃ、動揺して。さては、長ったらしい妾の話を聞きたくないとでも思ってたのじゃな? うーー……。 まあ、それは置いといてじゃな、上に上ることなんてできないのじゃ」


「さすがにそうですよね、もうビックリしましたよ。やっぱり、地道に上に上がっていくしかないんですよ」


「――――魔法を使えば、可能じゃがな!」


 リヴィが言うと、彼女の周りに一陣の風が吹いた。


「風よ、妾が力にて具現し、妾が命にて妾を飛翔させる糧となせ! ――――フライ!」


 すると、それを起点とするように暴風が吹き荒れ、彼女の足下にくるくると回り続ける暴風が集中する。


「どうじゃ? このまま上に行くことも可能じゃが、この魔法は他人にかけることは難しくてのう。なにせ、微妙な加減で飛ぶものじゃから、この狭い空間では下手したら壁に激突してぺちゃんこになってしまうのじゃ」


「激突してぺちゃんこって……怖っ! ええと、僕とティニアスのできる移動手段は、徒歩しかないです。けども、まさかレヴィにおぶられて上にいくなんてあり得ないですしね。本当にどうしましょうか」


 僕は、上を向いて穴の大きさを確認した。

 といっても、見やすい光源などがあるわけでもないので、おおよその把握だ。

 その程度は…………数十階層はありそうだ。

 一番上の階層の光が、細かい点となって見えるほどだから。


 そんな距離を歩いて移動したら、何日かかるかなぁ。

 とても現実的ではないし、その道中でトロルのような魔物に再度遭遇することも否定できない。

 それなら、この穴を通るのが最善なんだけど……うーーん。


 僕がうなると、ティニアスが肩をちょんちょんとさわってきた。

 なにかと思って振り返ると、彼女は申し訳なさそうな顔をしている。

 僕がどうしたの? と聞こうとするけど、その前に彼女が口を開いた。


「私は、少しかじった程度ですが、魔法を使えますわ。飛翔ぐらいなら尚更、できないことはありませんの」


 ああそうか、ティニアスが申し訳なさそうな顔をしていたのは、僕が魔法を使えないことを考えていたからだったのか。

 仲間に気を使わせるなんて、僕はなんてバカなんだ。


「すごいじゃないか、ティニアス! じゃあ、リヴィと一緒に上に上がっていてくれるかな? 僕は頑張って走って上がるよ」


 これ以上心配させないために、僕はそう言った。

 実際、走って上がるだなんて無理なんだ。

 それでも、助かるはずの人を僕のせいで殺してしまうなんてできない。

 そんな迷惑、かけられるものか。


「無理をするのはよくないのじゃ。妾はさっき、魔法をかけるのは難しいと言っただけで、不可能とは言っておらぬ。ただ少し、コントロールが危うくなってしまうというだけであるし、お主の剣聖の力があれば、障害となった壁さえ斬り伏せられるであろうからのう」


 下手したら死、うまくいったならば生、今さっき味わったばかりだ。

 それでも、リヴィが善意でやってくれると言っているのだから、僕は挑戦しよう。

 それと、この身に宿る剣聖の力を信じて。


「リヴィ、お願いします」


「わかったのじゃ。妾がある程度コントロールするが、細かな起動修正は自分で行うのじゃぞ。風よ、妾の力……」


 リヴィの詠唱が終わると、僕は風をまとっていた。

 空に浮遊するような、不思議な感覚。

 それに包まれて、魔法を体に受けていることに僕は緊張する。

 ティニアスも魔法をかけ終わったようなので、いよいよ飛ぶことになる。

 さて、どんな感じで飛ぶのか楽しみだ。


「軌道、風力共に問題はないようじゃから、行くのじゃ!」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公の性格やストーリーのつめがあまいと思います [一言] ん~、なんかいまいちです…
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