011 「魔法使い、伝説の剣?を抜く」
「多分ですが、ここは最下層であると」
「ここが!?」
「ええ、見てください、あの台座に刺さった剣を」
ティニアスがすっと手を向けた方向には、黄金の柄に輝く銀の剣身が見える。
それが、僕の膝辺りまでの高さの石の台座に刺さっている。
「あれが、伝説の剣ってやつなのかな?」
「確信にも近いですけど、私も父に聞いたことがありますのよ。かつて剣聖と謡われた最強の剣士は、ある一本の剣を持っていたと。そして、その剣はどんな無理な使い方をしても壊れなかった。勇者が持つと言われる、聖剣にも劣らぬ見事な剣であると」
「あの剣が、そうなんだ……」
思うと、僕の意思より体が先行して立ち上がる。
そして、剣が刺さる台座へと歩みより、その柄に手をかけた。
「アルクさん、罠が仕掛けられているかもしれませんわ。慎重にお願いしますの」
「わかった」
ティニアスの言葉が耳元を吹き抜ける。
そのぐらい僕は、目の前の剣に魅せられていた。
さっきの話が本当だとすれば、ここまで時間が経った今でも美しいこの剣身は、伝説の剣と言うに相応しいだろう。
手にとって見てみたい、そう思って僕は剣を引き抜いた。
「すごい、剣に魔力が満ち溢れてる!」
剣に直接、膨大な魔力が流れているのが分かる。
それは、生物が脈動するようだ。
その剣を振ってみたい、次はそう思った。
「アルクさん、なにをしているんですの? 危ないですわよ!」
「大丈夫だから、安心して」
僕が言われた方だったら、決して安心できないな。
でも、僕は剣に呼ばれている気がするんだ。
早く振って、この剣を使ってと。
さっき初めて剣を握ったばかりだけど、剣の構え方なんかが自然とできる。
だから、それが振る理由だ。
「ハアァッ!」
剣を掲げ、右肩の辺りから斜めに振り下ろす。
振ってみてわかったことだけど、とてつもなくこの剣は軽い。
それに、手に吸い付くように馴染んでくる。
最初から、僕のために作られたみたいだ。
そう思ってる内に、剣身が淡く発光しだした。
「な、なんだこれ!? ティニアス、なんか知ってる?」
「い、いえ、なんですのこれ!?」
そう話している間にも光量は増していき、遂に目を開けられないほどに煌々と光を放ち出した。
「くっ!」
しかし、それだけの光を放っているのにも関わらず、握っている剣の柄は熱くなかった。
つまり、発熱をすることがない発光現象であるということになる。
だけど、魔法でもない限りそんなことは――――まさか、魔法なのか!?
「ティニアス、これは魔法だ! やっぱり罠が仕掛けられてたんだ! ごめん、君の忠告も聞かずに」
「それより、その剣をどうするかが先決ですわ!」
だけど、視界を既に奪われている僕たちになにができるんだ。
精々が剣を遠くに投げ飛ばす位しかできないけど、今の僕たちの武器はこれしかない。
だから、捨てるわけにはいかない。
「じゃあ、魔法だろうとなんだろうと耐えてやるよ! 誰かわからないけど、僕にそんなことをしたことを後悔しろっ!」
より強く剣の柄を握り、踏ん張る足の力を増す。
そして、どんな衝撃が来ても耐えられるようにしていたのだけど――――
「なんだお主。さては、妾の封印を解いた者なのじゃ?」
いつの間にか光は収まり、目を開けると桃色の髪をした少女……というより、幼い女の子が偉そうにしていた。
この年から、貴様とか妾とか封印とか痛々しくて未来が心配だな。
可哀想だし、少し話にのってあげることにする。
「封印って言うのは?」
「今お主が剣を抜いたであろう? そしてその剣を使った。これで封印はとけたのじゃ」
「そんな簡単な封印なんてありますかね? そもそも、こんなところにそんな封印施されてますか?」
「あるからあるのじゃ! そもそもじゃな、あの剣はある資質を持っていないと抜けないのじゃ! それはな、この剣を……な、なんじゃ!?」
幼い女の子、もう幼女でいいや。
と話しているのに、ぐらぐらと地面が揺れ出す。
またこれかぁ。
ってことは階層ボスがここに来るのかな?
最下層だとしたら、こんなパーティーで勝てるわけがないのに。
「気をつけてください、アルクさん!」
「わかったよ、でもティニアスこそ気をつけないとね!」
「はい!」
さてと、戦闘前の余興は終わったところで、どんなヤバイ奴が来るのか。
正直、さっさと上に戻ってダンジョンから脱け出したい。
だって、いきなりこんな深く潜ることになるとは思っていなかったから。
準備……って言ってもすることは特にないけど、一応心の準備はしておきたい。
「来る!」
それでも来てしまうんだから、来るもの拒まずだ。
神経を研ぎ澄ませ、どこからどうやって来るのかを予想する。
すると、今度も視えた。
そこにいたのは、さっき落としたはずのトロルの姿。
体のあちこちの骨や内蔵が飛び出ていて、血だらけだ。
それでも走る姿は、狂気的と思わざるを得ない。
なんでそこまで執着するのか、そのトロルの姿を視ると、あることを思い出した。
「あのスケルトンと言い、トロルと言い、死霊術師がやっぱり近くにいるのか? トロルが既に死んでいるとしたら、らちが明かない。それなら、先に死霊術師を倒さないと!」
トロルから視点を変え、死霊術師を探そうとする。
しかし、その姿は僕の目に映らない。
なんでだ、そうあたふたしている間に、トロルが僕たちのいるところまでたどり着いた。
「なんでうまくいかないんだよっ、このままだったらジリ貧だっていうのに!」
僕は、意味なく何度も地面を踏みつける。
そうすれば、いくらかこの感情が薄れる気がしたから。
だけど、薄れるどころか気持ちは膨らんでいく。
「わかったよ、トロルを倒さなきゃいけないんだろっ!」
僕は、ティニアスが護身用に持っていたんだろう、小さな小剣で戦っているのに割り込むように、トロルを横から斬り込む。
「GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
その一撃で、トロルの左腕を完全に斬り落とすことに成功した。
しかし、所詮は不意打ちでの初撃。
そう何度も通じるものではないから、ここから実力勝負だ。
「僕が相手をしてやるから、かかってこいっ!」




