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新たな仲間

 女神の迷宮10階層を制覇した翌日である。

 目が覚めると丸太小屋(ログハウス)の中にアルトの姿はなかった。

 散歩にでも出ているのかとも思い、難破船に積んであった食糧で軽い朝食を用意していると、リンティも寝床から這い出してくる。

「おはようなのです……」

 相変わらず朝に弱いのか寝ぼけ眼だが、さすがに二日連続甘噛みしてくることはない。

「アルトさんは?」

「先に起きてるみたいだ……探してくるから飯でも食ってろ」

「ふぁい」

 もそもそと食事をとる少女を尻目に、いそいそと家を出る。

 昨日まで何もなかったところに家が建ってるなんて改めて信じられなかったが、さすがファンタジーといったところか。

 とりあえず、アルトの行先に心当たりがないので適当にぶらつきながら海岸を目指す。

 物見櫓の上ではちびゴーレム1号が監視を行っていたので、挨拶がてら彼女の居場所を聞いてみた。

「おはよう、こっちにアルトが来なかったか?」

「お連れ様ならあちらの岬の方に行かれましたのねん」

「おう、ありがとな」

 相変わらず変な話し方のちびゴーレムに軽く礼を述べてから、島の南側に突き出た岬を目指す。

 足場の悪い岩場を慎重に進むと、岩陰に見覚えのある少女の姿が見えた。

「何やってんだ?」

「……別にどうでもいいでしょ?」

 アルトの態度は相変わらずつっけんどんだが、以前のような露骨な拒絶は感じない。それでもこちらのことは意に介さず、水平線の向こうをぼんやりと眺めている。

 故郷のことでも思い出しているのだろうか。何か話題を出そうとして、しかし、意外なことに彼女から口を開く。

「あなた、女神様に呼ばれて異世界から連れてこられたのよね?」

「……そうだが?」

「あなたの世界ってどんなところなの?」

「そうだな……こっちのこともまだよくわからないけど、少なくとも魔法みたいなのはないかな」

「え? 魔法がないのにどうやって生活してるの?」

「うーん……」

 こちらの世界では魔法が一般的に利用されているのだろう。

 あちらの世界のことをどうやって説明したものか逡巡しながら、科学の力が文明を支えていること、何百万もの人が住み何十階建ての大きなビルがいくつも立ち並ぶ都市のこと、車や電車や飛行機などの乗り物のことなど、自分が知る限りのことを言い連ねていく。

 アルトはそれを夢物語か何かのように聞きながら、物思いにふけっているようだった。

「ロケットっていう宇宙……星々の世界まで行ける乗り物があって、月へ行った人もいるんだ」

「月か……私も行ってみたいな」

 どこか上の空で何もない青空を見上げながら、少女は消え入りそうな声で呟く。

 さすがにこちらの世界では月に行った人間はいないかもしれないが、予想していた信じられないといったような反応は返ってこず拍子抜けである。

 しばしの沈黙の後、アルトは再び口を開いた。

「私にはお姉ちゃんがいるんだ」

「そうらしいな」

「私と違って何やらせても優秀で、王都の魔法学院を首席で卒業してからは家督を継いで領地の財政を立て直して……地元ではレディ・グレースなんて呼ばれてるの。

 私なんて身体が頑丈なこと以外何も取り柄がなかったから、お姉ちゃんのことは自慢で、憧れで、羨ましくて、そして……妬ましかった」

 自分には兄弟はいない(・・・・・・)からその感覚はわからないが、身近な人間と比べられるというのは子供にとっては酷である。それが生まれながらに与えられたものの差なら尚更であろう。

「9年前かな、私が8歳くらいの頃にダージュ公爵家の宴に招かれたことがあって、お姉ちゃんも一緒だったから対抗心で張り切って……でも、やっぱり不器用だから失敗して。

 些細な事だったと思うけど、大人の人たちに笑われて、落ち込んで庭先でうずくまって泣いてたら、5歳くらいのちっちゃい女の子が近寄ってきてこう言うの。

『お姉ちゃん、どうして泣いてるの? おなか痛いの?』

 ってね。

 私よりちっちゃい子に慰められてるかと思うと恥ずかしくなって、また泣いちゃって。

 そしたら、

『お姉ちゃん、泣かないで。どんなに失敗しても、いっぱい頑張ったらちゃんと女神様は見ててくれるから、だから泣いてるよりも笑っていた方がいい』

 なんて。それで気付いたの、さっきのは笑われてたんじゃなくて、微笑ましく見守られていただけなんじゃないかって。

 人って勝手だよね、思い込みだけで世界の見え方が全然違ってくるんだもの。そう思ったらおかしくなって大笑いしちゃって、その子も呆れてポカンとしてたわ」

 事実はどうかはわからない。ただ、視点を変えることで前向きになれるなら、それはその人にとって真実たりえる。

「お姉ちゃんとのことだって、他人から一方的に比べられてるって思ってたけど、勝手に自分でそう思い込んでたんじゃないかって。そう思ったら気が楽になっちゃった。

 でも、しばらくしてあの子のお母さんが亡くなって、あの子が笑顔を無くしたって聞いて……私にできることは何だろうって必死に考えて、出した結論が騎士の道だったの。

 あの子の傍にいて、あの子の笑顔を守っていたい……リンちゃんは私の大切な宝物だから。

 だからね、昨日今日出会ったあなたになんて負けるわけにはいかないのよ」

 単なる昔話かと思っていたら、突然の宣戦布告に面食らう。

 だが、それは男嫌いだからというわけではなく、仲間として認めたうえで、ライバルとして宣言したように感じた。

「……やれやれ、別に彼女とはなんともないんだが」

 自分にとってリンティはただの子供でしかない。そう宣言されたところで、何もないはずである。

 たぶん、きっと。

 口が悪くて頑張り屋で、小さな身体に大きな使命を背負って。だいたい一緒にいたのは丸二日くらいである。そんな彼女を必要以上に意識することはない。

「むー、あの子が知らない人をあんなに信用することなんて、今までなかったのに」

「そう言われてもな……」

 特段何かをした覚えはないが、それはそれとして。

 受け答えに困窮していると、突然海岸の方から物見櫓の鐘が鳴り響いていた。おそらく、ちびゴーレム1号が鳴らしているのだろう。

「なんだ!?」

「ちょ、待ってよー!」

 慌てて駆け出す背後からアルトの声が遅れて聞こえてくるが、先行して物見櫓へ向かう。

「何があった?」

「沖に小舟が見えますのん。念のため警戒を~」

 言われて沖に目をやると、確かに水平線に小さな船影が見える。望遠鏡があればもうちょっとよく見えるだろうが、間違いなくこちらを目指して航行していた。

「敵か味方か……やれやれ、せわしないな」

 念のためグングニルを準備し、しばらく様子を見る。敵ならここから射貫くこともできそうだが、どうしたものか。

 アルトがようやく追い付いてきた頃には、船の形もハッキリ見えていた。少なくとも外洋を航海するようなサイズではない。

「あれって……白鯨号の救命艇? じゃあ、もしかして……」

 彼女が期待に目を輝かせる。

 おそらくリンティ達の乗っていた船の救命艇なのだろう。となると、少なくとも敵ではないらしい。

「おーい、みんなー!」

 諸手を挙げて呼び掛けるアルトの声にこたえるように、船上の人影も大きく手を振っている。

 その様子を眺めながら、しばらく事の成り行きを見守ることにした。


  ※


「何かあったのです?」

 鐘の音を聞きつけて、リンティも海岸に駆け付ける。

 そのころには、船上の人影もくっきり見えるくらいになっていた。

 見る限り女の子が三人、見た目はだいぶボロボロではあるが思ったより元気なように見える。

「みなさん、ご無事で……」

 やはり知り合いなのか、リンティの感極まったような声に少しだけ安堵の色が混じっていた。

 やがて救命艇が砂浜に乗り上げると、先頭にいた少女が軽やかな動きで飛び降りてくる。

「アルト! それに姫様もご無事で……」

「ペコちゃん! 会いたかったよ~♪」

 高校生くらいだろうか、細身の少女にアルトが一目散に抱き着いていく。抱き着かれた少女の金髪のセミロングから、短めの尖った耳が垣間見えた。

 彼女の身体を覆うのは軽装の革鎧、胸が控えめなことを除けば割とセクシーだが、おそらく盗賊か何かだろう。

 続いて降りてきたのも、同じく高校生くらいの少女である。

「あら~、二人とも無事だったのね。これもアスタリテ様のご加護かしら?」

「エリヤちゃんこそ、無事だったんだね!」

「聞いてよアルト! こいつ真っ先に救命艇に乗り込んでたのよ! 信じられる?」

「そんなことあったかしら~?」

 神官服のような衣装に身を包んだ緑髪ストレートでぱっつん前髪の少女は、金髪の少女に非難されながらもおっとりした口調ですっとぼけていた。

 そうして視線を彷徨わせた彼女がこちらと目が合う。

「何だか知らない人もいるみたいね~」

「カイトだ、よろしく」

 物腰や口調こそ大人しいものの、なんだか敵に回してはいけない気配がする。

 とりあえず、変な詮索をされる前に先に名乗っておくことにした。

「カイトさん? はじめまして、わたくしはエリヤ・ヌワラシュと申します。見ての通り、アスタリテ神官ですわ」

 アスタリテ神官だとすると回復職だろうか。彼等の使う奇跡は魔法とは別物らしいが、出先で回復できるなら迷宮などでも心強い。

 しかしアスタリテ神官とは、ポンコツ女神にも信徒はいるようである。

「あ、僕はペコ・オランジェ。よろしくね、カイト」

 金髪の少女も名乗る。だが、やはり耳が気になって仕方ない。ジロジロ見ていると彼女は耳を押さえて困ったような顔をしていた。

「ちょ、あんまりジロジロ見ないでよ。ハーフエルフってそんなに珍しい?」

「いや、すまん。初めて見たんで……」

「か、カイトさんは異世界から来たのですよ」

 照れるペコに慌てて謝ると、リンティも咄嗟に口添えしてくれた。

 それでも、やはりというか懐疑的な目を向けてくる。

「異世界から? ホントに?」

「へえ、詳しく聞かせてくれ」

 最後に船から降りてきたのは、長身のモデルのようなスタイルの少女だった。

 見た目からして二十歳くらい、彼女達の中で最年長だろうか、それより目を惹くのは頭頂部に生えた二本の耳。どう見てもウサギのそれである。

「ええと、カイトだっけか。俺はフィナ。フィナ・キーマン。見ての通り、ウサギの獣人なんだが……その様子だと、獣人を見るのも初めてといった感じだな」

 ラットマンは殆ど直立したネズミといった印象だったが、目の前の少女は耳と尻尾以外は殆ど人間の女の子と変わらない。

 特徴的なのはその服装で、傾奇者(かぶきもの)のような派手な着流しを身に纏い、腰には二本の刀を差している。いわゆるサムライという奴だろうか。

 紫髪をお下げにしているが、立ち姿も男勝りで凛々しく、面倒見のいい姉御肌のような雰囲気を醸し出している。

「異世界からの召喚者ということは、もしや女神に選ばれた伝説の勇者なのか?」

「いや、俺はそんな大したものじゃないが……」

「ふむ、一度手合わせ願いたいものだな」

 フィナはやる気満々だが、ファンタジー世界のサムライキャラなんて大抵実力者である。女神の迷宮で多少は戦えるようになったとはいえ、まともにやりあえるとは思えない。

「ははは、そう緊張するな。どうやら姫様とアルトが世話になったようだな。まずは礼を言う。

 私は諸国を放浪する流れの剣客で、今はダージュ伯爵家に食客として身を寄せている。まあ用心棒みたいなものだが、生憎と嵐には勝てなくてな。二人を守ることもできず、まったく不甲斐ない」

「そんな! お姉様ほどの達人でも嵐が相手ではどうにもなりませんよ!」

「ふーむ、しかしもうちょっとで嵐を斬れそうだったんだが……」

 慌ててフォローするペコをよそ目に、フィナは何やら物騒なことを呟いていた。

 嵐を斬るという発想がそもそもよくわからない。

 一方、エリヤは自分も漂流していたというのに、リンティ達の体調をしきりに気にしている。

「それにしても、アルトちゃんはともかく、姫様は嵐の海に投げ出されてよく無事だったわね」

「魔法の加護があるから何とかなったのです。それに、カイトさんに助けてもらいました」

「私の心配は!?」

 適当に流されたアルトが抗議の声を上げていた。

「アルトさんの場合は窒息のダメージより自然回復速度の方が速そうなのです」

「それもう人間じゃないな……」

 女三人寄ればとは言うが、五人も集まるとかなり賑やかになってくる。

 さすがに海岸で長話をするわけにもいかないので、いったん場所を変えて落ち着くことにした。


  ※


「すると、この島は女神の島で間違いないのだな?」

「はい、伝承通り女神の迷宮もありました」

 とりあえず丸太小屋に移動すると、遭難していた三人に軽い食事を与えつつ、現状報告を行っていた。

 エリヤの奇跡の力で何とか体力だけは維持できていたらしいが、丸三日も漂流していたのだから疲労も溜まっていそうである。特に脱水症状は顕著だった。

「それで、最初の試練は何とかクリアしたんですが、これからどうしようか迷っていて」

「三人だけで迷宮に潜ったの? まったく、無茶するわね」

 即死系の罠があったらどうするのよ、と呆れるペコではあるが、それなりに心配だったのだろう。

 盗賊として改めて自己紹介した彼女のスキルは探索【B】、隠密【B】、敏捷強化【C】、短剣【C】、弓【D】と幅広い。探索スキルがあれば鍵開けや罠感知などダンジョン探索に必要な能力は一通り使えるので、これからは心強い味方となってくれそうである。

「回復役もいないのによく頑張ったわね~♪ えらいえらい」

「ダンジョン内で回復アイテムが手に入ったのでなんとかなったのです。あと子供扱いはやめてください」

 仏頂面のリンティの頭を撫でているエリヤは、アスタリテ神官として奇跡【B】を習得しているほか、錬金術【C】、ついでに幸運【A】といったスキルも持ち合わせている。

 奇跡によって回復はもちろん、防御結界を張ったり毒の治療などもできるため安全性は大幅に向上するだろう。

「前衛がアルト一人というのも心許ないからな。攻撃面なら俺に任せておけ」

 自信たっぷりに言い放つフィナに至っては、頭一つ飛び抜けていた。

 彼女のスキルは身体強化【A】に刀【A】、固有能力(ユニークスキル)を持った英雄には及ばないらしいが、戦闘面では間違いなく達人クラスである。

 そんな彼女でさえ、女神の迷宮は30階層までしか到達できないだろうとのことだった。

「伝承の通りなら、人間が到達できるのは30階層が限界とされている。そこから先は人外の領域……それでも先に進まねば、魔王を倒すなど到底かなわないだろう」

「そんなに強い相手なのか?」

「うむ、俺より強い剣聖のユニークスキルを持った師匠さえ、魔王の前には為す術もなかったという。今の力では太刀打ちできないのは明白だ」

 悔しさを滲ませながら、フィナはハッキリと断言する。

 ならばこそ、女神の迷宮に挑むつもりなのだろう。女神の試練を突破し、魔王と戦う力を手に入れるため。

「だからこそ、カイトにも力を借りたい。どうか、我々と一緒に来てくれないか?」

「お姉様!? 何も頭まで下げなくても……」

 日本人だから、サムライが頭を下げる意味は分かる。

 だが、前回は成り行きだったから仕方ないとはいえ、あれより危険な場所に踏み込んで戻ってこられる保障はない。

「俺はこの島で隠居生活(スローライフ)を満喫したいだけだ。あんまり危険な事には首を突っ込みたくない」

「カイトさん……」

 真っ先に悲しそうな表情を浮かべたのは、一番最年少であるリンティだった。

 一緒にいた時間は丸二日と短いが、妙に懐かれてる気がする。

 アルトも一瞬落胆したような表情だったが、すぐに素っ気ない態度に戻っていた。

「あら~、まあ無理強いすることもできませんし、わたくし達だけで行くしかなさそうですね」

「いや、俺も行くぞ」

「へ? だってあなた、危険なことは嫌だって……」

「誰も行かないとは言ってないだろ。まあ、さすがに魔王と戦うつもりはないけど、ここは俺の島だからな。あんたらを送り出して、万が一戻らなかったら寝覚めが悪いし、試練をクリアすれば島も発展するから」

「じゃあ……」

 期待に満ちた目でリンティが見詰めてくる。

「俺の快適なスローライフのためにも、やることやらないとな。あくまでも行けるとこまで……って、うわっ!?」

「カイトさん!」

「リンちゃん!?」

 突然抱き着いてきたリンティに押し倒される。泣いてるのか笑ってるのか、よくわからない表情になっていた。

 アルトが何やら喚いているが、それどころではない。

「良かったのです。カイトさんが一緒なら、私も心強いですから」

「あらあら、お姫様が知らない人に懐くなんて珍しいわね。今夜はお赤飯かしら?」

「エリヤ!? 何言ってんのよ!」

「そうよ! リンちゃんの貞操は私が守るんだからね!」

 なんだかわちゃわちゃしてるが、とにかく、これで彼女達の仲間になったということでいいのだろうか。

「どうやら取り越し苦労だったみたいだな。カイト、君を歓迎しよう」

「どうも」

 フィナもひとまず安心しているようである。まあ、グングニルも貰ったし、それくらいの働きはしても問題ないだろう。

 その日は遭難していた三人の体調を鑑み、ゆっくり休養することにした。

 さすがに寝床が足りないため、フィナと二人でヤシの葉の寝袋で床に横になる。またこれを使うことになるとは。

「いいのか? ベッドじゃなくて」

「私はこの方が性に合ってるんだ。それに、君と話したいこともあったし」

 割と近い距離で顔を合わせ、思わずドキリとしてしまう。かなりの美少女だし、年齢的に近いこともあってか、女性として意識せざるを得ない。

「俺の服装、あまり驚かなかったから気になってな。こっちの国じゃ割と目立つのに」

「俺のいた国にも侍はいたからな……遠い昔のことだけど」

「へぇ、そうなのか。私は元々はぐれ者でな、旅の途中で偶然師匠に出会って、何年か剣を教えてもらったことがある。結局、一度も勝てなかったけどな」

「それって……」

 先程言っていた魔王に挑んだ剣聖を、師匠と呼んでいたのを思い出す。

「その師匠が言うには、自分は別の世界から来たんだと。ひょっとしたら、お前のいた国なのかもしれないな」

 それが事実なら、過去の時代から連れてこられたのか、それとも現代なのか。女神に直接聞いてみようと思ったが、直前で思いとどまる。

 必要以上に詮索すべきではない。

「俺は必ず女神の試練を突破し、剣聖を目指す。師匠を超える最強の剣聖に……」

 そう誓ったフィナの瞳は間違いなく侍のそれだった。何処の誰かはわからないが、その人物が託した魂は確かに受け継がれているのだろう。

 彼女ならいずれその域に到達するかもしれない。

「こんな話をしたのは、少しだけ師匠と同じ匂いを君に感じたせいかな……すまない、眠りの邪魔をして」

「いや……」

 最後におやすみとだけ言い残し、フィナは目を閉じる。

 自分以外の召喚者のこと、魔王のこと。それから色々考えこんでしまったが、結局睡魔には勝てなかった。

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