如何なる障害も排除するのみ!
「うわあああっ! あの裸の姉妹たちに見つかっちゃったじゃないかあああっ!」
清陀が叫び声をあげ、その身を震わせる。
突然、バゴォッ! という音とともに部屋の扉が打ち砕かれた。
「みーつけた! ここにいたんだラヴァーズちゃんの旦那さん。ね? アベル?」
「ホントだー。明日結婚式なのに、他の女の子と抱き合ってるよ? ね? カイン?」
粉々に砕け散る部屋の扉の破片の向こうから、トールの槌を片手に構えたカインと、口に手を当てケタケタ笑うアベルとがその姿を現した。
「な、何だお前たちは? トートの『恋人』のカードに描かれたカインとアベルは男の兄弟のはずだぞ?」
アテュは、その剣先を裸の二人の姉妹に向け、鋭い視線で睨み付けた。
「アテュ様! ここは私の支配するカードの中の世界。カインとアベルを女にするのも私の意のままなのですよ……」
カインとアベルの背後から、セミロングの桃髪に、桃色の瞳をした全裸姿の女性が現われた。
「魔人ラヴァーズ! 我の恋の獲物をカードの中に連れ込むなど、お前、一体どういうつもりだ!」
アテュが剣をカインとアベルに向けたまま、魔人ラヴァーズにその視線を向ける。
「あははは。その少年がアテュ様の恋の獲物だと言うのですか……?」
魔人ラヴァーズは冷たく高笑いをして清陀を見ると、そのままギロリとアテュを睨み返した。
「私の恋の矢は永遠の愛を約束するものです。その矢がその少年の手によってこの私に射られた以上、私のすべてはこの少年の所有物になるのです。従って私は、私のすべてをこの少年に捧げなければならない……」
魔人ラヴァーズはその切れ長の瞳を冷たく光らせ、腰の矢筒から真っ黒い矢を引き抜くと、弓にその矢を番えた。
「この魔人ラヴァーズは、この愛を永遠にまっとうするためならば、どんな手段でも使う覚悟! そのためならば如何なる障害があろうとも排除するのみ! たとえアテュ様であってもこの愛の障害となるならば、容赦はしないっ!」
魔人ラヴァーズがアテュに照準を合わせ、ギリギリッとその弓を引き絞る。
「わぁい! ラヴァーズちゃんの真っ黒い毒矢だあ! 毒矢なんて久しぶりだね? ね、カイン?」
アベルが嬉しそうにカインに笑いかける。
「うんうん、久しぶりだあ。ラヴァーズちゃんも本気だね。じゃあカインはこっちの寝ている女の子をトールの槌で殺そうっと! ね? アベル?」
カインはトールの槌を手に、清陀が抱きかかえる青峰貴梨花に襲いかかろうとする。
「わあああっ! 青峰さんのことを、カインちゃんまでもが殺そうとするなんてえええっ!」
清陀は貴梨花を守ろうと、その腕に抱く貴梨花の身体の上に必死に覆い被さった。
「魔人ラヴァーズ! 我が、お前を叩き斬るッ!」
アテュが手に持つ剣を魔人ラヴァーズに振り下ろしたその瞬間、ラヴァーズの弓から真っ黒い毒矢がアテュに向かって放たれた。




