夜道のルーヴ
「ウォーンッ! オレのウルフが雄叫び上げりゃあ、ドイツもコイツも震え上がるぜえっ! おおっと、ここで言うドイツはよお、国の名前じゃないぜ? んでもってコイツもよお、国の名前じゃあないんだぜ?」
満月の照らす夜道をオオカミ耳の少女、ルーヴが走る。
革ジャンにジーンズ姿のまま、四つん這いになり猛スピードで住宅街を駆け抜けるルーヴのその姿は、あまりの速さに、おそらく通常の人間の目には捉えることが出来ないだろう。
四つん這いで走るルーヴは、その鼻先を擦りつけるようにして、
「クンクン、クンクン」
とアスファルトの匂いを嗅ぎながら清陀の匂いを探していたのだった。
「ルーヴさぁん! 待つですよー! シエンヌはせっかくメイドさん姿になったし、お外で四つん這いは恥ずかしすぎるのですうううーっ!」
茶色いドレスに白いエプロンを付け、頭のホワイトブリムの隙間からはみ出した犬耳をピクピクと動かしながら、メイド姿のシエンヌが二本の脚でルーヴの後を追いかける。
「あははは! あは! あは!」
シエンヌの真横を、月ちゃんが妙なハイテンションで颯爽と通り抜ける。
黄金の光を発しながら空中を移動する三日月型の乗り物、『ヴェロモトゥール・リュネール』に跨った月ちゃんは、シエンヌを追い抜くと、遥か前方を疾走するルーヴに追いついていく。
「んもうー! そんな乗り物を独り占めして、月ちゃんずるいです! シエンヌも乗せてくださいですうううーっ!」
シエンヌは、ルーヴと月ちゃんにだいぶ引き離されてしまっていた。
「待ってえええーっ! 月ちゃん、ルーヴちゃん、シエンヌちゃん! ねえ、待ってえええーっ!」
その時、シエンヌの背後から、女の子の喚き散らすような声が聞こえてきた。
「あうあーっ? アルカナちゃんが来たです?」
シエンヌが後ろを振り向くと、遥か後方から自転車に乗った少女がこちらへと向かって来るのが見えた。
それは自転車を漕ぐ愛流華奈であった。愛流華奈はフードの付いた真っ赤なローブを身に纏い、胸には六芒星のペンダントを下げているという、まるで魔法使いのような格好をして、前にカゴの付いた赤いママチャリに乗り、そのペダルを必死に漕いでいた。
「はぁーっ、はぁーっ……シエンヌちゃん、ごめんね。私、着替えていたから皆から遅れちゃったの……はぁーっ、はぁーっ……」
愛流華奈は、ようやくシエンヌに追いつき、そのままシエンヌと横並びに自転車を走らせた。




