廊下で呼ぶ声
「うわああーっ! 助けてえええっ! 誰か助けてくれよおおおっ!」
清陀は屋敷の廊下を泣き叫びながら突き進んでいった。
清陀が逃げる廊下はどこまでも長く、ただただ延々と続く廊下の長さが、この屋敷の広大さを物語っていた。
廊下を突き進む清陀の目は涙で溢れ、目の前の光景もよく分からないまま、自らを追うカインとアベルから逃げることで必死だった。
「海野君、こっち……こっちですわ……」
その時、清陀を呼ぶ声がどこからか聞こえた気がした。
「え? 誰か僕を呼んだ?」
清陀は自分を呼ぶ声を気にはしたものの、今はカインとアベルから逃げている最中だ。落ち着いて辺りを見まわしている余裕も無かった。
「もう! 鈍いわね!」
清陀は、ガシッ、と唐突にその腕を掴まれた。
グイッと、何者かの腕が清陀を廊下の脇へと引きずりこもうとする。
「うわああああっ! こっちにも僕の命を狙う奴がいたあああ!」
清陀は情けない悲鳴を上げたまま、何者かの腕に強く引きずられていった。
パタン、と内側から静かに扉を閉める音が聞こえた。清陀はどこかの部屋に引きずり込まれたようだった。
「しーっ! 静かになさい、海野君……」
人差し指を口元に当て、静かにするよう清陀に注意するのは、青髪ツインテールに切れ長の瞳をした少女だった。
少女は、紺色のブレザーに赤いチェックのスカートという、清陀の高校の女子の制服姿をしていた。
「あ、青峰さん……? ど、どうして君がここにいるの……?」
清陀は、扉の内側に耳を当て外の廊下の様子をジッと窺っている青峰貴梨花に問いただした。
「しーっ! 声が大きいですわよ、海野君……」
青峰貴梨花は扉に耳を当てたまま、清陀に視線を向け、もう一度、その人差し指を自らの口元に当てた。
「私もタロット・カードの中に入り込んだのですわ……」
貴梨花はボソリ、とそう呟いた。
「ええ? 青峰さんもカードの中に? ど、どうして? まさか、この僕を追って来たのかい?」
清陀が不思議そうに、貴梨花の目を横から見つめる。




