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歓喜するシエンヌ

「んだとおーっ! お前それ早く気づけよな! どれ、オレにその教科書貸せよ!」

 ルーヴは愛流華奈から倫理の教科書をひったくると、

「クンクン、クンクン」

とその匂いを嗅ぎ始めた。


「うおおおっ? こ、コイツはホントに男か? この教科書の持ち主は女みてえな根性してやがるな!」 

 ルーヴはそう言って、倫理の教科書をポイッと放り投げた。


「あうあー! シエンヌもその匂いを嗅ぐですよー!」

 シエンヌは床に落ちた倫理の教科書に四つん這いになって飛びついた。


「くんくん、くんくん! 匂いを嗅ぐです!」

 シエンヌがその鼻を教科書に何度もこすりつけている。


「うきゃあああああぁぁぁぁぁッ!」

 倫理の教科書の匂いを一通り嗅ぎ終えたシエンヌが、色っぽい声で唐突にけたたましい叫び声をあげた。


「ど、どうしたの、シエンヌちゃん? 大丈夫? 叫び声をあげるほど、変な匂いだったの……?」

 愛流華奈が、シエンヌの叫び声に驚く。


「うひゃひゃああああああああぁぁぁぁぁッ!」

 シエンヌは倫理の教科書に噛みついたまま、色っぽい悲鳴を上げ続けた。


「この匂いいいいぃぃぃぃぃッ! シエンヌは大好きですうううううぅぅぅぅぅッ!」

 倫理の教科書を口に咥えたまま歓喜するシエンヌ。


 どうやら、シエンヌはこの教科書の持ち主である清陀の残り香に興奮してしまったようであった。


「シエンヌはぁ! シエンヌはぁ! この教科書の持ち主さんにラブしちゃいましたですーっ!」

 気が付けばシエンヌのよだれで倫理の教科書は完全にふやけてしまっていた。


「まあ……シエンヌちゃんったら、教科書に残っていた清陀さんの匂いを嗅いだだけで、清陀さんのことを好きになっちゃうだなんて……」

 愛流華奈はすこし呆れ気味にシエンヌを見たが、それだけ恋したリアクションを正直に取ることが出来るシエンヌのことを、すこしうらやましくも感じられたのだった。


「よーし! 早速、捜索に出発だよー!」

 不安げな表情をしていた月ちゃんは、いつの間にか笑顔を取り戻していた。


「シエンヌ! ルーヴ! アルカナちゃんの男友達の救出作戦開始だよー!」

 月ちゃんが部屋の扉を開けて外へ出て行く。


「おっしゃあっ! オレのウルフで一発キメてやんぜ!」


「ラブリーっ! ラブリーっ! 愛しのお方! 今すぐシエンヌが会いに行くです!」


 ルーヴとシエンヌが月ちゃんの後を追う。


「やだ……私、パジャマ着てたじゃない……」

 皆の後を追いかけようとして、愛流華奈がハッ、と自分の服装を見ると、淡いピンクのネグリジェを着ていたことに気が付いた。


「やだ……着替えないと……」

 寝室に一人取り残された愛流華奈は、慌てて着替えを探し始めたのだった。



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