シエンヌとルーヴ
「まあ! 清陀さんが危険な目に? 本当? 月ちゃん?」
驚きのあまり、愛流華奈が握るその手に強く力を入れる。
「アイタタタッ……アルカナちゃん、痛いってばあ……」
月ちゃんは、あまりの痛みに思わず愛流華奈からその手を引っ込めた。
「本当だってば……『月』のカードは霊感のカードだよ? 実は、あたしはこのことを伝えたくて具現化のサインをアルカナちゃんに送っていたんだよ……」
「ごめんね。つい、手に力が入ってしまって……月ちゃん、痛かったわね。本当にごめんなさい……」
愛流華奈は下を向き、月ちゃんに申し訳なさそうに言った。
「……霊感で感じたことをわざわざ知らせようと出て来てくれたのね。ありがとう、月ちゃん……」
「いいんだよ、あたしの霊感がアルカナちゃんの役に立つなら、あたしだってすごく嬉しいもの……でもね、すぐにその優しい男の子のこと助けに行ってあげたほうがいいかもだよ……その男の子の波動がね、トート・タロットの悪しき波動に呑み込まれていくのを感じるんだよね……」
そう言いながら、月ちゃんはまたしても不安げな表情になるのだった。
「……トート・タロットの波動ということは、アテュの仕業ね……アテュが今どこにいるか分かればいいんだけど……アテュの居場所を見つける何かいい方法はないかしら……」
愛流華奈もその表情を不安げなものに変え、両拳で額を何度も叩いては考え込む仕草を繰り返していた。
「それなら、きっと大丈夫だよ。あたしに任せて!」
月ちゃんは右手を自分の胸に当て、そう言うと、
「シエンヌ! ルーヴ! 出ておいでよ!」
と、寝台の上に置かれたままの『月』のカードに向かって叫んだ。
その瞬間、ボムッ! という音とともに『月』のカードから茶色い煙と、黄土色の煙がたちこめた。
煙がしだいに人間の少女の姿に変わっていく。
「クウウーン! 月ちゃん、シエンヌのことも呼んでくれてありがとです! 嬉しいワン!」
茶色い煙は、頭に犬のような耳の付いた茶髪茶眼の少女の姿へと変わった。少女のお尻には茶色い毛色の犬のような尻尾が生えている。少女はなぜか茶色いメイド服をその身に纏っており、頭の上にはホワイトブリムと呼ばれる髪留めを付けていた。
「シエンヌは具現化にあたり、メイドさんをイメージしてみました! どうです? 似合いますか? 似合いますかー?」
シエンヌがメイド服のスカートの裾を嬉しそうに広げて笑う。シエンヌが笑うたびに、頭のホワイトブリムからはみ出した犬耳がピクピクと動いた。
「ウォーンッ! おおっ、窓の外には満月が出ているじゃん! うおおっ、オレの中のウルフが騒ぎ出すぜえええ!」
黄土色の煙は、ショートの髪にオオカミの耳が生えた、釣り目の少女の姿に変わった。革ジャンを羽織り、ジーンズ姿の少女は、そのお尻からオオカミの尻尾を生やしていた。
「このルーヴを呼んだからにはよお、もちろんワイルドな展開が待ち受けてんだろうな? よーし、このオレがひと肌脱いでやんよ! 遠慮しねえで、何でも言いな!」
「まあ! 『月』のカードに描かれている犬とオオカミが具現化したのね! こんなこと初めてよ!」
愛流華奈は、カードから出て来た、シエンヌとルーヴという少女の姿を驚きの目で見つめた。




