未来は自分が決めたとおりになる
「うんうん、気に入っちゃった、気に入っちゃった。この制服もとっても似合ってて可愛いじゃん」
愚者ちゃんは、清陀が着ている高校の制服をマジマジと見つめて笑った。
そして愚者ちゃんは唐突に清陀の着ている紺色のブレザーの制服をペロッと舌で舐めまわした。
「ちょっと! 愚者ちゃん、制服なんか舐めないでよ!」
清陀が慌てて注意する。
「もう、汚いなあ! 制服はキャンディじゃないんだよ……」
「えへへへ」
愚者ちゃんが出した舌を口の中にしまうと、ボムッ、と音がして愚者ちゃんの着ていた花柄のワンピースのような服が、清陀の着ている高校の制服に変化した。
「あは。これでセイダ君とおんなじ学校のクラスメイトになれた気分だよー」
愚者ちゃんはブレザーにスカートという女子の制服の姿になって嬉しそうに笑う。
「うわあ、愚者ちゃん瞬間的に服が変わったよ? 着せ替え人形じゃないんだし、どんな魔法を使ったんだい?」
不思議そうな目で清陀が愚者ちゃんの制服姿をまじまじと見つめる。
「愚者のカードの『自由』って意味はさあ、何かに囚われていることから逃げて自由になるっていう意味じゃないんだよ」
愚者ちゃんは清陀の目を優しく見つめながら続ける。
「未来ってさ、まだなーんにも決まっていないんだ。今この瞬間に自分がさ、これからの未来をどういう未来にしようかって自由に決められるんだよ。未来は自分が決めたとおりになる。未来は自分が自由に創るものなんだ。それが愚者のカードの『自由』の意味なんだあ!」
「へえ、そうなんだ!」
清陀は感心しながら愚者ちゃんの目を見るも、
「……って、愚者ちゃんの洋服が僕の高校の制服に変わったことの説明になってないじゃん!」
とツッコミを入れた。
「アタシが今この瞬間に、『セイダ君と同じ制服を着る』って未来を決めたからさ、だから服が変化したんだ。ね、未来は自分が決めたとおりになったでしょ?」
「そんな、頭で想ったくらいで着ている服が変わるのなら、洋服なんて買わなくて済んじゃうよ! フツーの人間にはそんなこと出来ないって!」
「まあね、アタシだから出来たんだけどお……だってアタシ愚者ちゃんだもん。でもね、セイダ君だってきっと出来るようになるよー。こういうふうになりたい、って未来を自由に創ることがさ。本当は誰にだって出来るんだ。ただ、皆、それを忘れているだけだよ。大抵の人は、大人になっていくにつれて忘れちゃうんだよね、無邪気な子供の心をさ……」
そう言うと、愚者ちゃんはすこし哀しそうな目をするのだった。
「愚者ちゃん……」
清陀は愚者ちゃんが哀しそうにしているのを見て、どうしてよいか分からず言葉に詰まった。