そして誰もいなくなった
「うおおっ? 魔人ラヴァーズめええ! 何をする気だあああっ!」
アテュは、魔人ラヴァーズの身体から発せられるピンク色の光にその目を眩ませた。
「あああっ? 我のタロット・カードが勝手に飛び出していくぞ?」
光に怯むアテュのゴスロリのドレスから一枚のタロット・カードが飛び出すと、カードが魔人ラヴァーズと清陀の元へと飛んでいった。
魔人ラヴァーズの目の前でカードが空間上に大きく広がっていき、今や人間大の大きさにまで広がっていた。
トート・タロットの6番、「The Lovers」のカードは、ピンク色の輝きを放ちながら夜の暗闇の中に浮かび上がっていた。
「ご主人様、さあ、参りましょう」
魔人ラヴァーズが清陀の耳元でそう囁くと、二人の身体が空間上に浮かび上がるカードの中にスウウウ~ッ、と引き寄せられていった。
「うわあああっ! た、タロット・カードの中に、す、吸い込まれるよおおおっ!」
清陀は強くその身を魔人ラヴァーズに抱きしめられたまま、ジタバタともがきながら、なんとか必死の抵抗を試みるも、魔人ラヴァーズを振りほどくことは出来なかった。
「わあああっ、助けてえええっ」
清陀が、その背中を空間上のカードの中にめり込ませていく。
清陀をカードの中に押し込むようにして魔人ラヴァーズがその後に続いた。
「待て! お前たち!」
アテュが魔人ラヴァーズの背中の翼を掴み、引き戻そうとあがくも、その試みも虚しく、清陀と魔人ラヴァーズの二人は完全にカードの中に姿を消した。
「くそう! こうなれば我も後を追うぞ!」
アテュは二人を追うようにして慌ててカードの中へと飛び込んだ。
アテュがカードの中へとその姿を消すと、カードから発せられるピンク色の光がその輝きを薄れさせていき、カードがしだいに縮み始めていった。
◇
「待ちなさいよ! 私も海野君の後を追わせて頂きますわ!」
一人取り残された形となっていた青峰貴梨花は、空間上に今や僅かに人の頭程度の広がりを残すだけとなったカードに無理やりその頭を突っ込ませた。
「ぎゃあああ、頭を突っ込ませるだけで精一杯ですわあ……」
貴梨花が無理にその頭を突っ込ませたことで、カードの縮小がストップした。
「わた、わた、私の頭が引っかかって、これ以上縮みたくても縮むことができないのかしら……」
貴梨花は頭だけをカードの中にめり込ませ、首から下の胴体がカードの外側へと宙ぶらりんになった状態のまま、身動きが取れなくなっていた。
「抜け……抜け……抜けないですわあ! わた、わた、私の身体がカードに挟まれて、み、身動きすることも出来ず、わた、わた、私は一生をこのままカードに挟まれたまま過ごすことになるんだわあああっ!」
貴梨花はその手足を必死でバタつかせながら泣き喚いた。
貴梨花がもがき続けていると、突然、ズルンッ! とカードが強制的に貴梨花の身体を巻き込んだ。
「うぎゃーっ! か、カードに食べられますわあああ!」
貴梨花は悲鳴をあげながら、首から下の胴体をカードの中に回収されていったのだった。
貴梨花の身体がカードの中へと完全に姿を消すと、空間上に浮かび上がっていたカードは元々のタロット・カードのサイズへと戻り、ヒラリ、と道路上に舞い落ちた。
薄明るい街灯が、アスファルトの上に置かれた一枚のタロット・カードを心細く照らし出すなか、人気の少ない路地裏をふたたび夜の闇が覆い始めるのだった。




