星ちゃんのわがままン
「まあ、なんにせよ、愚者ちゃんの命が助かって良かったわ……ね? 星ちゃん?」
愛流華奈は制服の上から、愚者ちゃんの吸い込まれていったタロット・カードの束の厚みを確認するかのように手で撫でると、自分のことを嬉しそうに見つめている星ちゃんへとその視線を向けた。
「あ……ついつい、忘れていたわ……」
星ちゃんの後方に、首を上に向けてジッと空を見つめ続けたままの清陀の姿が目に映った。
「愛流華奈ちゃあああーんっ! 助けてくれーっ! 僕は下を向きたいのに、首が、首が動かないんだ……もう見たくないのに、ずっと夜空の星を見上げ続けてしまうんだ……な、なんとかしてくれよおーっ!」
清陀は、夜空に浮かぶ八芒星と、それを取り巻く七つの伴星に視線を定めたまま泣き喚いていた。
「ど、どうしてなのかしら……お空の星から目を離したくても離れないわ……こ、これじゃ真っ直ぐ歩けないし……そ、それに首が痛くてしようがないわあ……」
「そうだな、オレも天然のプラネタリウムにはもう飽き飽きなのに……首が、首が固まって……オレももう歳なのかな……」
道行く人々の、苦痛に満ちた会話も聞こえてくる。
「清陀さん、皆さん、ごめんなさい!」
愛流華奈は、清陀と通行人たちに慌てて詫びると、
「星ちゃん。愚者ちゃんを助けてくれて、どうもありがとう。もういいわよ、カードの中に戻ろうね」
と、星ちゃんに向かって優しく微笑んだ。
「ええー、もうカードの中に戻るのン? あたし、もっとこの世界で遊んでいたいのにン……」
星ちゃんは寂しそうな表情で呟くと、
「ねえン、せめて夜が明けて、朝になるまでこの世界にいちゃダメなのン? だって、あの子たちも嬉しそうに輝いてるンるン!」
と、夜空に輝く星たちを指さしながら、愛流華奈にせがむのだった。
「だめよ……皆、上を向いたままで可哀想でしょう? それに、裸んぼうの星ちゃんの姿を誰かに見られるわけにもいかないしね……」
愛流華奈が困り顔をして、星ちゃんに言う。
その時、キキキィーッ、と自動車の急ブレーキを踏む音が聞こえたかと思うと、蛇行する自動車が、ドスン! と激しい音をたてて民家のブロック塀に衝突した。
「ぎゃああ、ぶつけちまったあ!」
と喚きながら、運転席から飛び出して来た男は、首を傾けて夜空を見上げたまま、
「顔が……顔が上を向いちまって、マトモに運転できなかったんだよーっ!」
と泣き叫びながら、一目散に道路の向こうへ逃げ去っていった。
「ホラ、言わんこっちゃないわ! 今すぐカードに戻らなきゃダメえ!」
愛流華奈が真っ赤な顔をして星ちゃんに怒鳴る。




