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愚者ちゃん出てきて!

「愚者ちゃん! 出てきて!」

 少女はテーブルの上に置かれた『愚者』のカードに右手を重ねて叫んだ。


 その瞬間、ボムッ! という音がして、少女が右手で押さえている『愚者』のカードから黄色い煙が立ちこめ、煙がテーブルの脇に集まっていき、しだいに人の形のようなものを作った。


「ふぁ~あ。退屈過ぎてずっと昼寝してたんだよねー。アルカナちゃん、ぜんぜんアタシのこと構ってくれないからさあ……もう寝るっきゃないかと思って寝たら、三ヶ月も寝てたし」

 黄色い煙の作る人の形が、人間の女の子の姿になった。


「うわあっ! な、何だよ、コレっ!」

 清陀は突然の新たな女の子の出現に驚き、占い師の少女の胸に押し当てられたままだった右手を放した。


「あ~、キミ、せっかくアルカナちゃんの、おっぱい触ってたのに、手放しちゃっていいのー?」

 愚者のカードから飛び出てきたとしか思えない、その黄色い煙が作った女の子は、紺色の生地に黄色の花柄の入ったワンピースのような服を着て、右肩には荷物のくくりつけられた棒を背負い、左手には一輪の花を持ち、カードの絵柄の『愚者』そのものだった。

 カードの『愚者』と異なる点と言えば、カードに描かれていたのは少年の姿だったが、カードから飛び出てきたのは女の子だった、ということくらいだ。髪をボブにしてパッチリとした瞳の可愛らしい女の子で、見た目には十三、四歳くらいだろうか。


「アタシ、愚者ちゃんって言うんだ。キミが今回のクライアントでしょ?」

 カードから飛び出てきた女の子はそう言うと、

「ねえ、アルカナちゃん、このボクはどんな自由を望んでるんだってー?」

と占い師の少女に訊ねた。


「君の名前はアルカナちゃんって言うんだ?」

 清陀は占い師の少女に訊ねた。


「はい。そうです。私の名前は愛流華奈あるかなです。上井戸愛流華奈うえいとあるかなと申します」

 占い師の少女はニコッと微笑んで言うと、

「愚者ちゃん。クライアントさんはね、空を自由に飛び回るのがお望みだそうよ」

と愚者の姿の女の子に言った。


「あいあいさー」

 愚者の姿の女の子はおでこに手を当てて敬礼するような仕草をすると、

「そいじゃ行こっか!」

と清陀にムギュと抱きついた。


「うわあっ?」

 清陀は愚者の姿の女の子に唐突に抱きつかれ驚いた。清陀の顔が途端に赤く染まっていった。


 愛流華奈という女の子の胸を触ることができたり、愚者ちゃんという女の子にも抱きつかれたり、ひょっとして僕のモテ期が始まったのかも? 今日は人生最高の日かも! と清陀が心の中で思っていると、突然、自分の身体がフワッと宙に浮きあがったような感覚に見舞われた。


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