出て来なさいよ、アテュ!
「ムハハハッ」
高らかな笑い声とともに、暗闇からヌウウッと一人の大男が姿を現した。
大男は二本の角をその頭に生やし、両腕両足を「大の字」のように大きく広げ、宙に浮かびあがっていた。緑色の衣を身に纏い、その肌は黄金色をしている。
「お前はウェイト版の愚者だな?」
大男はそう言うと、愚者ちゃんの頭をガシッと掴みあげた。
「わわわっ! な、何するんだよーっ!」
大男に頭を掴みあげられ、愚者ちゃんが苦しみ悶える。
「フンッ!」
大男はバシッ、と愚者ちゃんをそのまま地面に叩きつけた。
「ぎゃああああ!」
愚者ちゃんは道路のアスファルトに激突した。アスファルトには亀裂が入り、愚者ちゃんの身体は道路にめり込んでしまっている。
「愚者ちゃん! 大丈夫?」
愛流華奈が急いで愚者ちゃんの元へ駆け寄る。
「ウ~ン」
愚者ちゃんは呻き声をあげて、そのまま気を失ってしまった。
「あなたは、トート・タロットの愚者ね?」
愛流華奈が大男を見上げて訊く。
「ムハハハッ。そうだとも。俺はトート版『愚者』のカードから出て来た、魔人フール様だ」
大男はそう答えながら、その右の拳でバゴッ、と民家のブロック塀を突いた。ブロック塀に穴が開き、その破片が砕け散る。
「うわあ! 『トートの書』に出て来た『愚者』が、なんで愛流華奈ちゃんの『愚者』を苛めるんだよー?」
清陀もやっと追いつき、愛流華奈にそう言うと、
「愚者ちゃん、しっかり、しっかりしろよおっ!」
と喚きながら、気絶した愚者ちゃんの身体を抱き起し、その背中に背負った。
「清陀さん、危険です。下がっていてください……」
愛流華奈は清陀の身体を庇うようにして、大男の前に立ちはだかった。
「……私の身に覚えがあるんです。トート版のカードから具現化させるだなんて、こんなことが出来るのはあの子しかいません……」
愛流華奈が清陀に振り向きそう言うと、
「いるんでしょ? 出て来なさいよ、アテュ!」
と大男の方を見て叫んだ。
「ふーん。なーんだ、覚えていたというのか……我のことなんか、とーっくに忘れたのかと思っていたのだがな!」
空間上の暗闇から、スウウッと一人の少女が姿を現した。
ゴシック・ロリータの黒いドレスに身を包んだロングヘアの少女だ。胸元には逆五芒星のペンダントを付けている。とんがり帽子を頭に被っていて、赤い髪に紫色の瞳をした十代半ばくらいの外見をしている。
アテュ、と呼ばれるその少女は、日傘を差しながら空中にフワフワと浮かんでいたのだった。
「五年ぶりだね、アルカナ……」
アテュはそう言いながらストッ、と地面に降り立った。




