ウキウキ!ワクワク!
学校からの帰り道を、清陀と愛流華奈、そして愚者ちゃんの三人で歩く。
「清陀さんのお家もこっちの方角なんですか?」
愛流華奈が清陀に訊ねる。
「ふごごっ……ぼ、僕の家はね、学校から見て、ちょうど反対方向なんだ……ふごごごっ……」
清陀が悶えながら、愛流華奈の質問に答える。
「うっわわーい! セイダの頬っぺたベーロ、ベロ!」
帰り道を歩きながらも愚者ちゃんはずっと清陀に纏わりつき、清陀の頬をベロベロ舐めまわしているのだった。
「むう……愚者ちゃん、お行儀が悪いわよ……すこしは落ち着かないと、カードの中に戻しちゃうんだから……」
愛流華奈は、すこし不機嫌そうに唇を尖らせ、愚者ちゃんを睨みつけた。
「わあああ! アルカナちゃんがアタシを睨んだーっ! セイダー、助けてーっ!」
愚者ちゃんはそう言いながら、清陀の腕に自分の腕を絡ませて、清陀の腕にギュウウッとしがみついた。
「ダーリン! ダーリン! アタシのダーリン!」
愚者ちゃんが清陀の腕に抱きついたまま連呼する。
「あはは。愚者ちゃんは僕の彼女というより、まるで僕に妹が出来たみたいな感じだよ……ホラ、僕、一人っ子だからさ、弟か妹がずっと欲しかったんだよね……」
清陀は、愚者ちゃんと愛流華奈との間に剣呑な雰囲気が漂うのをなんとなく感じ、取り繕うように言うのだった。
「むう……とってもカワイイ妹が出来て良かったですね……」
愛流華奈はすこし哀しそうな目をして清陀にそう言うと、
「清陀さんのお家は私の家とは反対方向だったんですね……ごめんなさい、わざわざ私のために大変な回り道をさせてしまう形になってしまって……」
と、申し訳なさそうに下を向くのだった。
「いいよ、いいよ、ぜんぜん気にしないでよ、愛流華奈ちゃん! 昨日だって僕、寄り道したおかげであの大通りで君と出会えたんだしさ。人生、寄り道も大事なのさ!」
清陀は嬉しそうな表情で愛流華奈に言った。
「なんかさ、寄り道するのが楽しく思えてきたんだよね。今までは毎日憂鬱でさ、現実から逃げたくて寄り道でもしないと気分が沈む一方だったんだけど、愛流華奈ちゃんや愚者ちゃんたちと出会ってからは、寄り道するのが楽しくって。なんかこう心がワクワクするっていうかさあ!」
「おおーっ! セイダすごーい! 『愚者』のカードの、『自由』の意味をよく分かってきたじゃーん! 心ウキウキ! 心ワクワク! これが大事なんだよーっ!」
愚者ちゃんは、清陀にそう言うと、
「ウキウキ! ワクワク!」
と、鼻歌を歌いながら、ピョンピョン、と地面を跳ね、そのままスキップするようにどんどん先へと進んでいくのだった。
「こら、愚者ちゃん! あんまりはしゃいでいると、車にぶつかるわよ!」
愛流華奈が愚者ちゃんを追いかけようとする。
「エへへーッ! 自由なアタシが、アルカナちゃんに捕まるわけないじゃーん!」
アカンベーッ、と舌を出した愚者ちゃんは飛び跳ねる速度を増し、愚者ちゃんと愛流華奈との鬼ごっこが始まった。
「ちょっと! 愚者ちゃん! 愛流華奈ちゃん! 僕を置いて行かないでくれよーっ」
と、清陀がさらにその後ろから愛流華奈を追いかける。
「あは! 楽しーっ!」
最前列で愚者ちゃんが得意になって笑った、その時、愚者ちゃんの前方の空間上に突如、暗い闇が現われた。
「はれ? なんだあ?」
愚者ちゃんがその前方に現われた暗闇を覗きこもうとする。




