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どうか、授業を始めていただけますか?

 その瞬間、教室内にいる全員がまるで動画を逆再生するかのように、今まで取った行動を反対に行ないはじめた。


 貴梨花の腕を掴んでいた清陀が、ものすごい速さで貴梨花から離れ、カッターを首に当てていた貴梨花はものすごい速さで机にカッターをしまい、死神ちゃんと吊るされた女ちゃん、塔ちゃんたちはカードの中に吸い込まれていき、保健委員が杏奈先生を抱えて廊下から教室に戻って来て、赤いテーブルクロスに愛流華奈と貴梨花が向き合い、テーブルクロスの上に置かれた三枚のカードが一つの束に戻されていく。


 そして――。


「そうね! ねえ、上井戸さん。もし良かったら、この時間を使ってちょっと誰かを占ってあげてくれないかしら? 私も上井戸さんのタロット占い、ぜひ見てみたいわ!」

 教壇に立つ杏奈先生がその真ん丸な瞳から好奇心を覗かせ、愛流華奈に向かって両手を合わせて、

「ね? どうかな? どうかな?」

と、おねだりするようなポーズで囁く。


「わあっ、愛流華奈ちゃん、凄いなあ! これ程までに、クラスメイトの皆も、杏奈先生も、君がタロットで占うのを期待するだなんてさあ!」

 清陀が隣の席から、愛流華奈に向かって嬉しそうに言う。


 あら、ちょうど杏奈先生や清陀さんが私にタロット占いを披露してくれ、とお願いしているところに時間が巻き戻ったのね……

 愛流華奈がチラッと後ろを振り向くと、青峰貴梨花が席に座ったまま両腕を組んで愛流華奈を睨み付けているのが見えた。


「あ、運命の輪ちゃん……?」

 教室の後ろの隅に、胴体に時計盤をはめこんだ少女が立っていた。運命の輪ちゃんは愛流華奈の方を見て微笑むと、

「一時間は戻らなかったけどさ、ちょうどこれからアルカナちゃんが占いを始めようというタイミングのちょっと前にまで戻ったよ!」

と、愛流華奈にだけ聞こえる声で囁いた。


「そう。ありがとう、運命の輪ちゃん……」

 愛流華奈はニコッと微笑みながら運命の輪ちゃんに頷いた。運命の輪ちゃんがボムッと音をたて水色の煙にその姿を変え、愛流華奈の制服の内ポケットに吸い込まれていく。


「杏奈先生、そう言っていただけるのはとても嬉しいのですが、人様にお見せするほど、たいした占いではないので……どうか、授業を始めていただけますか……?」

 愛流華奈は振り向いて教壇に立つ杏奈先生の方を見ると、笑顔でそう言うのだった。


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