10番 WHEEL OF FORTUNE 「運命の輪」
「いいい、一生立ち直れないくらいの、だ、大失恋ですってえええ……?」
青峰貴梨花は死神ちゃんの言葉に動揺し泣き喚いた。
「わた……わた……私の運命の恋が……海野君へのこの熱い想いが……か、叶えられないというのなら……私は……私は……」
ヨロヨロッ、とその身体をよろけさせながら青峰貴梨花は自分の机に歩み寄ると、机の中からカッターナイフを取り出した。
ジジジッ、とカッターの刃が突き出す音がした。
「……私は死んだ方がマシですわ……海野君と結ばれることが永遠に無いと言うのなら、こんな世界に……こんな世界に生きていてもしかたがありませんわああああっ!」
貴梨花は泣き叫びながら自らの首筋にカッターの刃を当てた。
「うわあああっ! 青峰さん、早まらないで! 早まらないでよおっ!」
清陀は慌てふためき、貴梨花を止めようと、必死に貴梨花の腕を掴んだ。
「う、海野君、放して、放して頂戴! 私は、私はあなたと結ばれないなら、潔く、この世界から消えてなくなる所存ですわ……」
貴梨花は清陀の手を振りほどこうと、もがき続ける。
「もう! 死神ちゃん! あなたのせいで大混乱じゃないの!」
愛流華奈は死神ちゃんに向かって強く怒鳴ると、
「もう、こうなったらこの手しかないわ!」
と、赤いテーブルクロスの上に重ねられたタロット・カードから一枚のカードを抜き取り、叫んだ。
「10番、WHEEL OF FORTUNE.『運命の輪』のカードより具現化せよ、運命の輪ちゃん!」
愛流華奈が手にしたカードを突き出すと、ボムッ! という音とともにカードから水色の煙が立ちこめた。
水色の煙がしだいに人間の形を作っていく。
「はいはーい。ウチを呼び出すなんてまさにグッドタイミングだね、アルカナちゃん!」
水色の煙が一人の少女の姿に変化した。クレオパトラを彷彿とさせるようなボブカットで、切れ長の瞳の十三、四歳くらいの少女。
片手に剣を持っており、注目すべきはその胴体で、胴体には大きな丸型でオレンジ色をした時計盤のような物がはめこまれている。時計盤には時刻を表す数字ではなく、「TARO」の文字と、神の名を表す四文字のテトラグラマトンと呼ばれる「IHVH」の文字とが交互に描かれている。
「運命の輪ちゃん! お願い! 今回の占い、無かったことにして!」
愛流華奈が、運命の輪ちゃんと呼ぶ少女にそう告げると、
「オッケー。それじゃ、一時間ほど運命を逆回転させちゃえばいいかな?」
そう言って、運命の輪ちゃんはお腹の時計盤をブルルンッと反時計回りに回転させた。




