スリーカード・スプレッド
「はい、けっこうです。ありがとうございます。それでは、その三つに分けた山をまた元通り一つの山に戻していただけますか?」
愛流華奈は終始ニコニコ微笑んだままで、優しく貴梨花に言うのだった。
「な、何よ! せっかく三つの山に分けたって言うのに、また元通り一つの山にしろって言うの?」
貴梨花がまるで飼い主に刃向う子犬のような目つきで愛流華奈を睨み付けて言う。
「はい、元通り一つの山にお願いします」
愛流華奈は、貴梨花がいくら睨み付けようとその優しげな微笑を崩さないので、貴梨花も拍子抜けした。
貴梨花は、ふたたび飼い主のご機嫌を窺う子犬のような怯えた目に戻り、しぶしぶと、テーブルクロスの上でカードを一つの山にまとめなおした。
「はい、ありがとうございます」
愛流華奈は貴梨花に一言、礼を言うと、ふたたびカードの束の上に両手を置き、そっと目を閉じた。
「な、何よ! いちいち目を閉じて、なんだか気味が悪いわね……私に何か変な念を飛ばそうとしているわけじゃないわよね……?」
貴梨花は、目を閉じて無言で黙りこむ愛流華奈にイライラし、まくしたてるように言った。
その瞬間、愛流華奈が唐突にその瞳をパッ、と開いた。
「ひっ」
貴梨花が喉を鳴らす呻き声を上げ、ガタッと、椅子ごとその身を後ろに仰け反らせる。
愛流華奈は無言のままカードの束をトランプを切るときのような手つきでカットし始めた。
愛流華奈はカードを切り終えると、積み重ねられたカードの山から一枚ずつ脇に捨てていった。愛流華奈が一枚、二枚、三枚とカードを山の脇へと捨てていき、六枚ほどカードを捨てたところで、七枚目のカードをテーブルクロスの中央よりやや左側の位置に置いた。続いて八枚目のカードをテーブルクロスの中央に、九枚目のカードを中央よりやや右側へと置いた。
「カードの展開が終わりました」
愛流華奈がニコッと微笑みながら言った。
テーブルクロスの上には全部で三枚のカードがすべて表向きに、その描かれた絵柄が分かるような形で横一列に置かれている。
「スリーカード・スプレッドで三枚のカードから貴梨花さんの好きなお相手の気持ちと、お二人の関係が今後どのように展開していくかを観てみます。左側のカードから右側のカードへと向かって順番に、過去、現在、未来、の時系列に沿って、お相手の気持ちと、お二人の関係の変化を観ていきましょう」
愛流華奈は、青峰貴梨花にそう言って微笑んだ。
「『過去』の位置には『塔』のカードが正位置で、『現在』の位置には『吊るされた男』のカードがこれも正位置で、『未来』の位置には『死神』のカードがこれもまた正位置で出ています」
愛流華奈は、赤いテーブルクロスの上に展開された三枚のカードが、何のカードであるのかということを左から右へと順に説明していった。




