タロットと言えば恋なのよ!
「どんなことでもいいですよ……勉強のことでも、恋愛のことでも、健康のことでも。今、ご自身が心の中でいちばん気にかかっているような事柄が良いかもしれないですね……」
愛流華奈が、赤いテーブルクロス越しに向かい合う青峰貴梨花に微笑みかける。
青峰貴梨花が愛流華奈と向かい合って座った瞬間、杏奈先生をはじめ、クラス中の生徒たちが占いの模様を間近で見ようと、愛流華奈の机の周りに群がってきた。
「勉強とか恋愛とか健康ですって……?」
青峰貴梨花はフフン、と鼻で軽く笑うと、
「クラス一優秀なこの私が勉強のことなど占っていただく必要なんてあるのかしら? それに文武両道を極め、スポーツも万能であるこの私が健康運などを占ってもらう必要もなくってよ?」
と愛流華奈に冷たく言い放った。
「そうなんですね……勉強も健康もとても順調のようで、うらやましいです!」
愛流華奈は笑顔で頷き、
「じゃあ、恋愛のことでも占いますか?」
と、微笑みながら貴梨花に訊ねた。
「れ、恋愛ですって……?」
青峰貴梨花は声をうわずらせて愛流華奈に訊き返すと、
「れ、恋愛運なんて、こ、このクラス一、い、いや校内一の美少女とも噂される青峰貴梨花様がわざわざ占うなんて、そ、そんなこと必要なくってよ……」
と、貴梨花は額に冷や汗を垂らしながら、視線を泳がせ、うわずった声で言うのだった。
「そうですか? 困りましたね、そうだとしたら何を占って差し上げたらいいのかしらね……」
愛流華奈が困惑気味に貴梨花に言うと、
「委員長の恋バナって聞いたことねえよなーっ」
「そうよね、青峰さんって勉強とスポーツに打ち込んでちょっと硬派なイメージあるから、浮いた話って聞かないわよねー」
と、外野から次々に野次が貴梨花に浴びせられた。
「そうよ! 恋よ、恋! タロットと言えば恋なのよ! タロット占いの醍醐味は好きな人の気持ちを占うことよ!」
杏奈先生が目を爛々と輝かせながら持論を展開し始めた。
「青峰さんだって本命の相手はいるでしょ? いくら校内一の美少女と噂されると言っても、大勢の男性といっぺんに付き合う訳にはいかないものね。ここはやっぱり本命の相手の気持ちを占ってみたらどうかしら?」
杏奈先生はそう言いながら、青峰貴梨花の肩をポン、と叩くのだった。
「おおーっ、杏奈先生が珍しく屁理屈じゃない正論を言ったぞーっ!」
「そうね、杏奈先生は生徒の恋も応援してくれる、いい先生だわー」
外野の声が杏奈先生の提案を強力に後押しする。
「ほ、本命の相手の気持ちを占うですってえええ……?」
青峰貴梨花はガタガタと身体を震わせながら、その切れ長の瞳から涙を滲ませて、言うのだった。
「わた、わた、私の本命の人の気持ちが……そ、そのカードなんかで分かってしまうなんて……そ、そんな……そんな……」
そう言って貴梨花は、赤いテーブルクロスの上に積み重ねられたカードを怯えるような目で見つめた。




