オレ様は悪魔失格かもしれねえ
「ケッ! オレ様が催眠暗示で操った人間どもは、どうも普段よりか力が弱くなっちまうからよ、使えねえんだよなあ。あんな弱っちそうなセイダなんかにクラス全員なぎ倒されちまうんだからよお……」
天井に逆さまにぶら下がっていた悪魔ちゃんは、クルッとその身体を回転させると、ストッ、と教室の床に着地した。
「……しかしよお、セイダとかいうお前さあ、どうしてオレ様の催眠暗示に操られなかったワケ? お前みたいな単純なヤツほどコロッと暗示にかかるはずなのによお……」
「そ、それは……」
清陀は、泣きじゃくる愛流華奈を胸に抱えたまま、悪魔ちゃんの方を振り向き、言葉を詰まらせながら言った。
「……そんなこと、僕にだって分からないさ……ただ、僕は……僕は、心から愛流華奈ちゃんを助けたかった。心から愛流華奈ちゃんのことを心配して、助けてあげたかった……それだけだよ……」
そこまで言って、途端に清陀は恥ずかしくなった。
あれ、どうして僕はここまでして愛流華奈ちゃんのことを助けたかったんだろう……もしかして、僕は愛流華奈ちゃんのことを……もしかして……?
清陀は自分の頬が赤く染まり始めたことに気がつくのだった。
「清陀さん……」
清陀の胸の中で、愛流華奈が涙に濡れたその頬を赤らめて、清陀の顔を見上げていた。
「ケッ! やってらんねえよなあ! オレ様の悪巧みがよお、かえって年頃の男女のハートに火を付けちまったってんじゃ、オレ様は悪魔失格かもしれねえな……オレ様の催眠暗示が効かねえくらいに、そのお姫様のことを想う王子様のハートにはよお、さすがのオレ様も歯が立たねえってことか……ああ、つまんねえ。つまんねえ。オレ様今日のところはよ、カードに戻るわ……」
悪魔ちゃんは舌打ちをしてそう言うと、ボムッと音をたてて、黒い煙にその姿を変えた。悪魔ちゃんが姿を変えた黒い煙は、スススウ~ッと愛流華奈の着ているブレザーの制服の内側へと吸い込まれていった。
その瞬間、ハッ、と意識を取り戻したクラスメイトたちが、倒れていた床から起き上がると、一斉に、抱き合ったままでいる清陀と愛流華奈の二人に視線を向けた。
「うわー、海野の奴と転校生とが抱き合っているぞーっ!」
「きゃー、海野君って、やっぱり転校生の子とデキてるのよーっ!」
クラス中の男子と女子が、抱き合う清陀と愛流華奈の二人を囃したてる。
「んまあ! 海野君の変態的行動が、転校生の愛流華奈さんにまで及ぶとは! このクラス委員長の青峰貴梨花は、学校側に海野君の退学処分を要求させていただきます! こんな変態生徒を断じて許すわけにはいきません!」
「う、海野君! て、転校生の子にまで手を出すなんて、ぼ、ボクたちの関係はもうおしまいだね……海野君はもうボクとは別の次元に行ってしまったんだね……ぼ、ボクは悲しいよお……」
青峰貴梨花と、四谷一郎太の二人は、清陀のことを特に強く責めたてるのだった。




