レンズ越しに覗く瞳
「へえ……まさか、道端で声をかけてくる女の子なんているはずがない、とか思っちゃうタイプなのかもですね、あなた」
続けて聞こえてきた声を聞いて清陀はギクッとした。
「だ、誰ですか? きっと僕をバカにしているんだな?」
清陀は思い切って声の聞こえる方向を振り向いた。
「うあっ?」
清陀の視界に映ったのは、椅子に座って、真っ黒なテーブルクロスが掛けられた簡単なテーブルの上で片手を水晶玉の上に置き、もう片方の手で特大サイズの虫眼鏡を握り、そのレンズ越しに清陀をジッと凝視する、一人の少女だった。虫眼鏡のレンズにその少女の片方の目がとてつもなく大きく拡大されて映っていたので、清陀は一瞬、異様な化け物が自分を覗いていると思ってしまったほどだった。
その少女は見た目、清陀と同じくらいの年頃で、十代半ばくらいだろうか、ストレートの髪が肩にかかるくらいに長く、パッチリとした瞳が仔猫のようで可愛かった。
しかし、服装は魔法使いのような真っ赤なフードの付いたローブを身に纏い、首には六芒星の描かれたペンダントを下げていた。ローブのフードは下げられていたので、長く美しい髪をした女の子だと分かったが、これがフードで頭をすっぽりと覆っていたら、たんなる不審者のように見えたことだろう。
「な、何なの、君は……?」
清陀は声をうわずらせて、恐る恐る訊ねた。
「え? 見て分かりませんか? バカなんですか? あなた」
少女はニコッと微笑んで言ったが、よく聞くととても失礼な言い方をしているよな、と清陀はムカッときたのだった。
「えっと……あれだよね、その、宝くじとか売る人……だよね……?」
見て分かりませんか、という少女の問いかけに、苦笑いしながら清陀は答えるが、どうしよう、宝くじなんて売りつけられても、絶対当たるはずなんてないし、そもそも僕の雀の涙にもならないほどのお小遣いをそんな勿体ない使い方なんてできないし、など心の中で考えるのだった。
「ちょっと! ホントに見て分からないですか? 私、宝くじなんて売ってないですよね? ねえ、どこにもクジなんて置いて無いし……」
少女はそう言いながらテーブルの上を人差し指で指し示す仕草をした。
「……あのね、宝くじは絶対と言っていいほど『当たらない』けど、私の占いは絶対『当たる』んですよ」
続けざまに少女はそう言い、テーブルの隅っこにポツンと置かれていた木箱に手を掛け、その蓋を開けた。
「私がもっとも得意とするのはタロット・カードなんですよ。私がするタロット占いはそんじょそこらの占い師が行なうタロット占いとはまったく別物なんです」
少女は木箱にしまわれていたカードの束を手にして微笑んだ。