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書き順は大事だからねえ

 その時、突然、教室の扉がガラガラッと開き、一人の中年の男性が教室に入って来た。


「君たち、ずいぶんと騒がしいな……うわ、なんで窓ガラスが割れているんだ……とにかく皆、席に着きたまえ」

 国語教師の柿淳大冶かきじゅんだいじであった。

「ホームルームの終わりのチャイムはとっくに鳴っているというのに、君たち、だれも気がつかなかったのか? ホームルームが終わっても杏奈先生がなかなか職員室に戻って来ないと思ったら、杏奈先生が倒れたそうじゃないか? どうして保健委員は職員室の私のところにそのことを報告しに来なかったんだね?」


「ごめんなさい。柿淳先生を呼びに行くのを、つい、うっかり忘れてしまいました……」

 保健委員の女子生徒が教壇の柿淳大治に向かって謝った。


「うっかり忘れられちゃ困るねえ。一時限目の授業は私の担当する現代国語なんだよ……」

 柿淳大治は保健委員の女子生徒にそう言うと、

「バツとして漢字の書き順の練習を君にはやってもらおうかな。教科書まるまる一冊分に出てくるすべての漢字の書き順をノートに書き取りして今日の放課後までに提出しなさい。なにしろ漢字の書き順は大事、だからねえとっても……」

と言ってニヤリと気味の悪い笑みを見せた。


「ええっ、そんなあ……放課後まで教科書一冊分もだなんて、無理です……」

 保健委員の女子生徒は半ベソ気味になりながら言うのだった。


「無理なら別にいいんだよ。君の内申点に響くだけだからね……」

 そう言って柿淳大治はまたニヤリと気味の悪い笑みを浮かべた。


「先生ーっ! いくらなんでも酷いですよー! 先生は悪魔ですかー!」

 柿淳大治の嫌がらせのような仕打ちに見かねた男子生徒が声をあげる。


「そこの男子、うるさいねえ。君にも漢字の書き順提出させるよ?」

 柿淳大治が冷ややかな目で男子生徒を見てニヤリと笑う。


「いえ、やっぱり先生は悪魔じゃないです。すいませんでした……」

 男子生徒は小さい声でつぶやいた。


「ちょっと! あなた先生でしょう! そんな生徒にイジメみたいな真似をしていいんですか!」

 愛流華奈は、ガタッと突然席から立ちあがると、教壇の柿淳大治に向かって抗議の言葉を浴びせた。


「や、やめなよっ! 愛流華奈ちゃん!」

 偶然にも愛流華奈の座る席は清陀の隣りだった。

 清陀は、立ちあがったままでいる愛流華奈の腕を掴むと、着席するよう必死に促した。


「おや? 君は見ない顔だねえ? ひょっとすると転校生かな?」

 柿淳大治は愛流華奈の姿をジロッと凝視すると、

「君はまだ転校してきたばかりだから知らないのも無理はない。この現代国語の時間はねえ、私が法であり正義なのだよ。いわばね、私は法を自由に作る皇帝と言ったところかな……転校生の君に、私からの歓迎の意を込めて、君にも書き順提出させようか?」

 そう言って、柿淳大治はニヒヒヒッと気味の悪い笑い声を漏らすのだった。


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