杏奈先生バタンキュー
「あ、あのう……あ、あなたは、どこのクラスの生徒……?」
担任の森咲杏奈が驚愕の表情をして愛流華奈に訊ねる。
杏奈先生は床に両手をつけてそのまま床に座り込んだ姿勢で、身体をブルブルと震わせていた。
「えっと、私は転校生の……」
ハッ、と我に還った愛流華奈が森咲杏奈の質問に答えようと顔を上げると、教室中の生徒がポカンと口を開けたまま言葉を失っている様子が目に映った。
「……上井戸愛流華奈です……」
愛流華奈はとりあえず自分の名前を言い切った。
「ウ、ウェイト・アルカナさん……?」
杏奈先生は冷静さを失っていたためか、外国人の名前と聞き間違えた様子だった。
そして、何か間違いに気が付いたように、
「……あ、ああ、て、転校生の上井戸愛流華奈さんね……わ、私は担任の森咲杏奈です……よろしく……」
と動揺しながらうわずった声で言い直した。
「……そ、空から飛んで来た女の子が二人、三階の窓を割って入って来て、片方の女の子の着ていたワンピースが瞬間的にウチの学校の制服に変化して、そして、その子がカードの中に吸い込まれていって、それで、もう片方の女の子が転校生の上井戸愛流華奈さん……?」
と、杏奈先生は一本調子で喋り続けた後、
「わ、私は魔法でも見たのかしら……きっと疲れているんだわ。だから、幻覚を見たのよね……そう、これはきっと幻覚に違いないわ……」
と、目を丸くして、そのままバタンと倒れ込んだ。
「わーっ! 杏奈先生が倒れちゃったぞーっ!」
「誰かあー保健室連れってあげてーっ!」
「保健委員ーっ! 保健委員ーっ!」
と、目の前で繰り広げられたまるで魔法のような光景に今まで呆然と口を開けていただけの生徒たちも、担任の森咲杏奈が倒れたことで、急に我に還ったかのように騒ぎはじめた。
保健委員によって杏奈先生が保健室に運ばれて行くなか、教室に残った生徒たちは愛流華奈と清陀の周りに集まった。
「ねーねー、ウェイト・アルカナさんって言うんでしょ? 外国人なの? どこの国の人? 私、外国人のお友達がずっと欲しかったのー。ぜひお友達になりましょーっ!」
「すげえよ、空飛んで来たり、カードから女の子召喚したりするんだ? 君、魔法使いなの? ねえ、カードから俺に彼女になってくれる女の子を召喚してくれよ!」
「魔法ってどこで習ったのー? 私にも魔法を教えてーっ! 私も魔法使いになりたいーっ!」
……など、愛流華奈に対して生徒からかけられる声はどれも好意的なものばかりだった。
それに対して、清陀には、
「カードから出て来た女の子にまで手を出すなんてサイテー。クラス委員長である、この青峰貴梨花があなたの変態的振る舞いについて生徒会ならびに風紀委員会に告訴します!」
「う、海野君、ぼ、ボクは君を見損なったよ……カードの中の女の子とリアルに抱き合うだなんて……ぼ、ボクたちはあくまでも二次元の女の子にハァハァし続けなきゃいけないんだああっ!」
……など責めたてる声しかかけられなかった。




