冬の夜空に響く笑い声
「アルカナちゃんたち大丈夫かなあ……」
満月の夜空の下、住宅街の路地裏で座り込んだ月ちゃんが溜め息を付き、呟いた。
「もしかして皆、焼け死んじゃったりしていないかな……」
「ウォーン! 月ちゃんは本当に心配性だぜ。むしろ逆にカードの世界が居心地が良くてアルカナちゃんもセイダの野郎も全員、向こうに住みついちゃったりしてな」
ルーヴは鼻をフフンと鳴らしてそう言うと、傍らに置かれていたトート・タロットの『恋人』のカードを撫でまわした。
すると、突然、ボムッ! という音とともにカードの表面がピンク色の輝きを発しながら、みるみるうちに広がり始めた。
「ウ、ウォーンッ? び、びっくりさせやがって!」
驚いたルーヴがビクッとその身を仰け反らせる。
「アルカナちゃんたち帰って来るんだ……」
月ちゃんはその表情に笑みを戻し、空間上で広がるカードを見つめる。
「……でも、もしかしたら、きっと上手くいかなくてトートの『恋人』のカードの皆を連れて帰って来ちゃうのかなあ……?」
月ちゃんは急に不安げな表情になるのだった。
空間上で人間大の大きさにまで広がったカードからポン! ポン! と次々に人が飛び出して来る。
「ウォーン! 月ちゃんの予感が当たったみたいだぜ! トートの『恋人』の連中まで全員カードから戻って来たみたいだぜ!」
ルーヴが雄叫びを上げながら、カードから飛び出して来た顔ぶれを眺める。
清陀、愛流華奈を初めとして、愚者ちゃん、シエンヌ、世界ちゃん、女帝ちゃん、法王ちゃん、魔術師ちゃん、魔人ラヴァーズ、カインとアベル、リリス、イヴ、フードの大男、白鷲、赤いライオン、オルフェウスの卵に至るまで住宅街の路地裏は大人数で溢れ返ってしまっていた。
「ねえ、アルカナちゃん……結局、カードの中の人たちを皆、連れて帰って来ちゃったってことは、やっぱりもうトートの『恋人』のカードには住めないってことなんだね……?」
月ちゃんが哀しそうに愛流華奈に訊ねる。
「ううん、そうじゃないのよ、月ちゃん……」
愛流華奈は月ちゃんに優しく微笑んだ。
「じゃあ、どうして、トートの『恋人』のカードの皆がここにいるの……?」
月ちゃんが心配そうに愛流華奈に訊き返す。
「月ちゃん、それはさ、トートの『恋人』のカードの皆も僕たちの家族だからさ! ね? 愛流華奈ちゃん?」
清陀が笑って月ちゃんにそう言い、愛流華奈に振り向いた。
「そうですね。トートのカードであってもウェイト版のカードであっても皆、私たちの家族ですよ! ね? 皆さん?」
愛流華奈は笑って清陀に頷くと、路地裏に集まるウェイト版、トート版の二種類のカードから飛び出して来た面々にそう言って笑いかけた。
「そうだよーっ! 皆、家族だよーっ!」
「クウウーン! 皆さん家族なのですワンンン!」
愚者ちゃんとシエンヌの嬉しそうな返事が聞こえる。
「ご主人様もアルカナさんたちも皆、私たちの家族ですよ」
魔人ラヴァーズが笑顔で応えた。
「「みーんな私たちの家族だよ!」」
カインとアベルも声を揃えて笑う。
その後、冬の夜空の下には、大勢の楽しそうな笑い声がいつまでも響き渡ったのだった。
『うらなっタロット! アルカナちゃん』は、この回でひとまず第一部が完結となります。
第一部をご愛読いただき、ありがとうございました。
今後、第二部の執筆もおこなうつもりでおります。
第二部連載開始まで今しばらくお待ちいただければと思います!