どんなカードだって大切にしたいな
「もちろんだよ、ボクちんは神の代理だよ? 地上に遍く神の教えを広めるのがボクちんの役割なのだからーさ!」
法王ちゃんはそう言うと、森に向かって三重の十字架の笏を、
「オーマイゴォォォーッド!」
と絶叫しながら振り下ろした。
すると、ボン! という大きな音が響き、森に茂る木々の隙間から土埃が高く舞い上がったかと思うと、突然、森の中から教会の尖塔らしきものが顔を覗かせたのだった。
「ぬおおっ? まさか! 森の中に教会が突然現れたのか?」
「なんと! わらわも驚いたのじゃ! あれはまさしく剣のアーチの礼拝堂のある教会そのものじゃ!」
「まあ! これで、またいつでもこの楽園で結婚式が挙げられますね……」
フードを被った大男、リリス、イヴの三人が森の向こうにそびえ立つ教会の尖塔を見て涙を流している。
「どーんなもんだーい! これが神の代理であるボクちんの実力さー」
法王ちゃんは、その右手を高く挙げ、フードの大男とリリス、イヴの三人に祝福のサインを送りながら微笑んだ。
「アルカナさん、ご主人様。そしてウェイト版のカードの皆さん。本当に何から何までありがとうございます。もう一度このカードの世界に暮らせるなんて本当に夢のようです……」
魔人ラヴァーズが泣きながら、愛流華奈や清陀、その場にいるカードの少女たちに礼を言う。
「ラヴァーズちゃんと結婚式を挙げなくても、アルカナちゃんたちは皆、家族さ! ね? アベル?」
「そうだよ! ラヴァーズちゃんと式を挙げなくても、アルカナちゃんたちは皆、私たちの家族だね! ね? カイン?」
カインとアベルも満面の笑みで、愛流華奈や清陀たちに心からの感謝を表すのだった。
「いやいや、僕なんて何にもしてないよ。全部、愛流華奈ちゃんとカードの女の子たちのおかげさ!」
清陀は嬉しそうに、魔人ラヴァーズやカイン、アベルたちの顔を見てそう言うと、
「カードの中の世界も無事に元通りになったことだし、僕たちは元の世界に帰ろうよ! 愛流華奈ちゃん!」
と愛流華奈の顔を見て笑った。
「そうですね! カードの世界にあまり長居してもあれですし、私たちは元の世界に戻りましょう!」
愛流華奈も満面の笑顔で清陀に静かに頷いた。
清陀に頷きながら愛流華奈は心の中に湧き上がる喜びを抑えきれないでいた。
自分の使うウェイト版では無いとは言え、トート・タロットの『恋人』のカードの世界を劫火による焼却から救い出せた……
種類は違ってもタロットはタロットだ。どんなカードにだって、そこに暮らすカードの住人達には喜びや悲しみといった、いろいろな想いがあって、いろいろな人生があるんだ……
これからも私はどんなカードだって大切にしたいな……
愛流華奈が心の中の自らの想いに耳を傾けていると、
「ううむ! それでは我輩、全員をカードの外に連れ戻すのですかな!」
と魔術師ちゃんの叫ぶ声が聞こえてきた。
「えっ? えええっ?」
愛流華奈は耳を疑った。
「ま、魔術師ちゃん! 『全員』って言っちゃだめなのよーっ!」
愛流華奈が慌てて魔術師ちゃんを止めようとするも、魔術師ちゃんは、
「エエイッ」
と右手に持った聖杖を天に高く突き上げ、ブルンッ! と大きく回転させてしまったのだった。