居心地が悪いわ!
すると、ボムッ! という音とともに『女帝』のカードから黄色い煙がたちこめた。
黄色い煙がしだいに人の形を作っていく。
「ボンジュール! 皆さん、御機嫌ようー」
カードから出た煙が一人の少女の姿になった。
金髪の目鼻立ちのハッキリした十代後半くらいの少女。
『女帝』のカードに描かれた女性と同じように幾つもの星が輝く冠を頭に被り、ザクロの模様が描かれた白いローブを着て、椅子にゆったりと座り寛いでいた。
「女帝ちゃん! ここはトートの『恋人』のカードの世界なの! この世界を緑豊かな大自然の世界に戻してほしいの!」
愛流華奈が『女帝』のカードから出て来た少女に向かって言う。
「まあ? ここが『恋人』のカードの世界ですって?」
女帝ちゃんと呼ばれる少女は、その表情を青ざめさて、椅子に座るその身体を後ろに仰け反らせた。
「『恋人』と言えば、楽園の描かれているカードのはず。ウェイト版とは違って、トート版の楽園というものはこんなにも殺風景なものなのかしら?」
女帝ちゃんはワナワナとその身を震わせながら、椅子から立ち上がると、
「分かりました。こんなにも殺風景なのでは居心地が悪いですもの。これじゃまるで私が逆位置で出た時みたいな居心地の悪さだわ……いや、それ以上かもね……」
と言って、その手に黄金の笏を握りしめ、その場に立ち尽くした。
「逆位置だと居心地が悪いって、どういうこと……?」
清陀が咄嗟に愛流華奈に訊ねる。
「はい、『女帝』のカードは本来、『豊かさ』を表すカードですが、『居心地が良い』というような意味もあるんです。それがカードが逆さまで出ると、『貧しさ』や『居心地の悪さ』などを表す場合もあるんです。愛と美を象徴する金星とも関わりの深い『女帝』のカードですから、女帝ちゃんなら、ホルスの目で焼き尽くされたこの世界を豊かな自然に恵まれた元通りの美しい世界に戻してくれると思ったんです!」
愛流華奈が清陀の質問に嬉しそうに答える。
すると突然、背後から、
「お花咲け咲けーっ! エーンヤコーラあーっ!」
と甲高い喚き声が聞こえてきた。
「な、なんだあっ?」
清陀が驚いて後ろを振り向くと、女帝ちゃんが手に持つ黄金の笏を大地へ向けて振り下ろしながら喚いていたのだった。
「うわあっ? 女帝ちゃんもなんだかノリが女教皇ちゃんの雨乞いの時と似ているなあっ!」
清陀は、喚きながら黄金の笏を振り下ろす女帝ちゃんの姿に不安が増す一方だった。
「ほ、本当に大丈夫なの? 愛流華奈ちゃん?」
清陀が愛流華奈にヒソヒソ声で耳打ちする。