いいから、これは内緒ね……
「ハアーイ! アルカナさん何か用?」
バトンをクルクルと回しながら、世界ちゃんが小走りに愛流華奈と清陀の元へと駆け寄ってくる。
「世界ちゃん。この紅茶は世界ちゃんの力で四大元素を操って淹れたのね?」
愛流華奈が小声で世界ちゃんに囁く。
「もち正解よ! 見ていてねー。エイッ!」
世界ちゃんがそう言って、空っぽのティーカップに向けてバトンを振り下ろした。
すると、次の瞬間、何も無い空間からジョボジョボッと水が流れ出し、空っぽのティーカップの中に水を注いでいった。
「エイッ!」
もう一度、世界ちゃんがバトンを一振りすると、今度はティーカップに注がれた水が瞬時に沸騰し、お湯になった。
「あとはお好みの紅茶のティーバッグを入れるだけよー」
世界ちゃんが笑いながら紅茶のティーバッグをカップの中に浸している。
「えええ? 一体どういうことお?」
清陀が目の前で起きた一連の出来事に驚愕する。
「ハアーイ。簡単なことよー。このバトンはね、火地風水の四つの元素を操れちゃうの。まずこのバトンで水の元素を操り、空気中の水蒸気を液体に変えるでしょ。それで今度はお水をね、火の元素を操ってお湯に変えただけよー」
世界ちゃんが清陀に笑いながら解説する。
「えええー! す、凄いや! それなら、世界ちゃんにはあのホルスの目の炎だって簡単に消せ……」
清陀が驚きながらそこまで言いかけた時、愛流華奈が、
「しーっ」
と口元を人差し指で押さえながら清陀の発言を遮った。
「ええ? どうして僕を黙らせるんだい、愛流華奈ちゃん?」
清陀が不思議そうにしていると、愛流華奈は、
「いいから、これは内緒ね……」
と清陀に微笑みかけた。
「世界ちゃん……あのね……」
愛流華奈が世界ちゃんにヒソヒソと内緒話を耳打ちする。
「もちオッケーよ! アルカナさん!」
世界ちゃんは笑って愛流華奈に頷くと、バトンを月桂冠の輪の外に向けて、
「エイッ!」
と振り下ろした。
「えっ、今、世界ちゃんは一体何をしたんだい……?」
清陀が輪の外にバトンを振った世界ちゃんの行動を不思議がっていると、
「うっわーっ! 雨だーっ! 雨が降って来たよーっ!」
と、大声ではしゃぐ愚者ちゃんの叫び声が聞こえてきた。
「ええー、まさか。愚者ちゃん、本当なの……?」
愛流華奈がクスクスと笑いを堪えながら愚者ちゃんの元へ駆け寄る。
「ほらーっ、見てよーっ! アタシが一生懸命雨乞いしたおかげだよーっ!」
嬉しそうに跳びはねる愚者ちゃんの姿の向こうに、
「ザーッ……」
という大きな音をたて、どしゃ降りの雨の雫が天から降り注ぐ光景が見えた。