ハアーイ!お茶どうぞー!
一時間後。
女教皇ちゃんの雨乞いはずっと続いたままだった。
「ハアーイ! 皆さんお茶が入りましたよー!」
茶髪のショートヘアーの少女、世界ちゃんがお盆に紅茶を乗せて持ってきた。
「えっ? こんな月桂冠の輪の中で、お茶なんか淹れる設備あるの?」
清陀が不思議そうに世界ちゃんに訊ねる。
「いやですね! 給湯室とかそんな気の利いたものがこの輪の『世界』の中にあるわけが無いじゃないですか!」
世界ちゃんが笑って清陀に言う。
「えっ……じゃあ、一体どうやって……?」
清陀が世界ちゃんに訊き返すも、
「ハアーイ! お茶どうぞー! お茶! お茶!」
と、世界ちゃんはお盆を持ったまま、女教皇ちゃんの方へと行ってしまうのだった。
「うるさい! 今、雨乞いの祈りをしている最中だろうが! 茶なんて要らんわ! ボケェ!」
女教皇ちゃんが世界ちゃんを怒鳴り付ける声が聞こえてくる。
「アタシも、雨乞いちゅうーっ! 忙しいからお茶なんて要らないよーっ!」
愚者ちゃんの声も続けて聞こえてきた。
愚者ちゃんは、いまだに女教皇ちゃんの横で雨乞いのために一緒に踊り続けているのだった。
「雨乞いが始まってから、もう一時間以上経ちますね……」
愛流華奈が紅茶に口をつけながら清陀に話しかけてくる。
「……女教皇ちゃんには悪いけど、やっぱり雨乞いでは雨を降らすことなんか出来ないし、雨でホルスの目の炎を消そうという発想自体、無理があると思うんです……」
愛流華奈はその表情を曇らせたまま沈んだ声で言う。
「そうだよね。僕もそう思うんだ。一緒になって一生懸命踊っている愚者ちゃんにも悪いけど……」
清陀も紅茶を飲みながら、そう返事をすると、
「……ねえ、ところでこの紅茶なんだけど、世界ちゃんはどうやって淹れたのかな? 見たところこの月桂冠の輪の中の『世界』にはお湯なんて沸かしたりする設備も無いと思うんだけど……」
と愛流華奈に訊くのだった。
「そう言われたら、そうですね……」
愛流華奈も清陀の言葉を聞き、自らも心の中で感じていた違和感にあらためて気が付くのだった。
「……電気ポットを使うにも、この輪の中に電源コンセントなんてあるわけでもないですし……」
愛流華奈は月桂冠の輪の中を見渡してみた。
魔人ラヴァーズやカインとアベル、イヴやリリスたちが世界ちゃんの振る舞う紅茶を口にしている光景が目に入る。
それ以外、月桂冠の輪の内側は、ただ何も無い、がらんとした空間のみがそこにあるだけで、外界から隔絶されており、電気、ガス、水道などのライフラインが供給されているはずもない。したがって、この輪の中でお湯を沸かすことなど出来るはずもなかった。
「ハアーイ! お茶を淹れ終わったら、生命のダンスを踊りたくなっちゃったわよー!」
世界ちゃんはそう言いながら、両手のバトンをクルクルと回しながら、輪の中央でダンスを踊り始めるのだった。