今こそ神の力に訴える時!
「当然です! この私を誰だと思っているんですか! 宇宙の真理の深淵に繋がる、神秘の探究者ですよ?」
女教皇ちゃんはキッ、と愛流華奈を鋭く睨むと、
「偉大なる神は宇宙そのものです! 今こそ神の力に訴えかける時!」
と意気込み、水色のローブの隙間から、先端に三日月の載った細長い杖を取り出した。
女教皇ちゃんは三日月の杖を右手に持つと、その両腕を大きく広げ、月桂冠の輪の外の荒れ狂う炎の渦をジッと見つめた。
「うわあ! 一体何をするつもりなんだい?」
清陀が女教皇ちゃんの発する気迫に驚いて、興味津々といった様子で問いかける。
「神の力に訴えるって、きっとすごい技を使うんだろうなあ!」
「雨乞いです……」
女教皇ちゃんがボソッと一言、蚊の鳴くような小さい声で言った。
「えっ……?」
清陀がポカンと口を開け、呆気にとられた様子で言う。
「あ、雨乞い……?」
「そうだよ、雨乞いだよ! 文句あんのか? コラァ!」
女教皇ちゃんが目を吊り上らせ、清陀に怒鳴る。
「い、いえ……文句ないです」
清陀はビクッとその身を震わせ、下を向いて謝った。
「おほほ。聖職者である私としたことが、つい大きな声を……いけませんわね、常に冷静でないと……」
女教皇ちゃんは苦笑いすると、
「……では、早速、始めます……」
と、三日月の杖をグイッと前へと突き出した。
「雨よー降れぇーっ! 風よー吹けぇーっ! 雨よー降れぇーっ! 風よー吹けぇーっ!」
女教皇ちゃんは目をつぶり、三日月の杖を右へ左へと大きく振りながら、一心不乱に祈り始めた。
「だ、大丈夫かな、愛流華奈ちゃん……?」
清陀が愛流華奈にヒソヒソ声で耳打ちする。
「えっ……あっ……そ、そうですね……」
愛流華奈が著しく口ごもりながら清陀に答える。
「たぶん……もしかして……きっと……大丈夫なんじゃないでしょうかね……?」
そう答える愛流華奈の目は泳ぎ、その声は不自然にうわずっていた。
「うわあっ……愛流華奈ちゃん、目が泳いでいるよ? やっぱり愛流華奈ちゃんも雨乞いなんかじゃダメだって思っているんだなあ……」
清陀は愛流華奈のその反応に不安が募る一方だった。
「クウウーンッ……なんだかぜんぜん大丈夫じゃない気がいたしますです……今時、雨乞いなんて子供騙しのオマジナイみたいなものです! それならまだ、てるてる坊主を逆さまにして、『るてるて坊主』にして吊るしたほうがよっぽど効果があるような気がいたしますですワンンンッ!」
シエンヌが、ひやかしているように思いきや、意外と真剣な表情で言う。
「うっわわーい! 雨乞いーっ! 雨乞いーっ!」
その一方で愚者ちゃんは、両手を広げてはしゃぎながら、女教皇ちゃんの横で踊っているのだった。