帰る世界が無くなったんだね
「皆を助けてくれて、ありがとうございます。ウェイト版の魔術師さん……」
魔人ラヴァーズが涙ながらに魔術師ちゃんにお礼の言葉を口にする。
「……でも、トートの『恋人』のカードに戻ろうにも、私の屋敷も礼拝堂も木々の生い茂る森もすべてが劫火によって焼き尽くされてしまいました。カードの中の世界には、もう何も残ってはおりません……」
そう言うと魔人ラヴァーズは途方に暮れた様子で俯いてしまう。
「魔人ラヴァーズちゃんたちには帰る世界が無くなっちゃったんだね……」
清陀は魔人ラヴァーズを憐れむように見つめると、
「……ねえ、愛流華奈ちゃん! 魔人ラヴァーズちゃんたちには僕たちの世界で一緒に暮らしてもらおうよ!」
と、愛流華奈に笑顔で言うのだった。
「そうですね、魔人ラヴァーズさんたちに、この世界で暮らしてもらうのも良いのですが……私にちょっと考えがあります!」
愛流華奈はそう言って清陀に微笑み返すと、
「魔人ラヴァーズさん! トートの『恋人』のカードの皆さん! もう一度、カードの中の世界で暮らすことが出来るかもしれませんよ!」
とカードの住人達に向かって呼びかけた。
「ええっ? アルカナさん、それは本当ですか?」
魔人ラヴァーズが驚きの声をあげる。
「ええ、本当です……」
愛流華奈は静かにコクリと頷いてみせると、
「ねえ、魔術師ちゃん、もう一度、トートの『恋人』のカードの中に連れてって!」
と、傍にいる魔術師ちゃんに微笑んだ。
「ううむ! お安い御用ですかな!」
魔術師ちゃんは、既に元通りの大きさに戻っていたトート・タロットの『恋人』のカードを路地裏の道路の上に置くと、
「棒のスペアがあって助かったですかな!」
と笑いながら、
「エエイッ!」
と棒を手に持ち、一振りした。
道路上でトート・タロットの『恋人』のカードがみるみるうちに大きく広がっていき、人間大の大きさとなった。




