我輩、融通が利かないですからな
「ううむ! なんと言っても我輩、強制的に全員をカードの外の世界へと連れ戻したのですからな!」
魔術師ちゃんが愛流華奈の疑問に答えるように、その右手で白い聖杖を天に高く掲げて笑う。
「全員をカードの外に連れ出すとは、なんとも大所帯なのですかな!」
魔術師ちゃんがそう言って路地の奥の暗闇に目を向けると、路地の奥には数人の人影が見えた。
「わたくし、禁断の知恵の実を食べたわけでもありませんのに、楽園から追い出されるはめになるなんて……」
そう言ってシクシクと泣き続けるのは、カインとアベルの母親であるイヴだった。
「うーむ、わらわともあろうものが、ホルスの目なんぞに油断したわい!」
リリスがその後ろから顔を出し、苦笑する。
イヴもリリスも全裸姿ではあるが、その髪の毛はチリヂリに焼け、その肌は真っ黒い煤で覆われていた。
「ワシも静かに式を祝福したいだけだったのだがな……」
さらにその後ろには、ボロボロに焼け焦げたフードを被った大男が両手を突き出し、祝福と聖別のしるしである『入場者の合図』の形を取りながら立ちつくしていた。
「グワッ、グワッ」
「ガルルルッ」
大男のさらにその後ろには白い鷲と真っ赤なライオンが、その皮膚の色も分からない程に黒焦げになって佇み、バサバサッ! と翼を羽ばたかせながら真っ黒焦げのオルフェウスの卵が宙を舞っていた。
「まあ! トートの『恋人』のカードに描かれている人たち全員が助かったのね!」
愛流華奈は驚き、そして、
「良かった! 助かって本当に良かったわ!」
と嬉し涙を流した。
「魔術師ちゃん! 全員を助けるなんて流石だわ!」
愛流華奈の感激する声に、
「ううむ、我輩の具現化魔術も融通が利かないですからな……全員と言ったら、本当に全員をカードの外に具現化させてしまうのですからな……」
と魔術師ちゃんは謙遜するのだった。




