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この場所であなたをお待ちしています

「具現化魔術? なんだか難しくてよく分からないけど、僕にとっての愚者ちゃんは可愛い女の子の愚者ちゃんしか考えられないなあ……」

 清陀はふたたび頭の中で愚者ちゃんとの空中デートのことを思い出していた。清陀は自分がニヤニヤした表情になっていることも気づかず、自分がまさか頬を真っ赤に染めているなんてことにも気が付かなかった。


「いっけね! もう、周りは真っ暗だ! もう、こんな時間なんだ? 僕、家に帰んなくちゃ!」

 清陀がフッと気が付くと、とっくに夜になっており、ネオンが街を明るく照らしていた。腕時計に目を落とすともう夜の七時近かった。


「……ねえ、君はいつもこの大通りで占いをしているの? 今度また来るよ。今日はありがとう。楽しかったよ!」

 そう言って、清陀はあたふたしながら走り出して行ったのだった。


「はい、あなたがまた来てくれるのなら……私はこの場所であなたをお待ちしています……」

 愛流華奈は走り去る清陀の背中に向かってそう叫んだが、既に清陀の姿は見えなくなってしまっていた。


「まったく……私じゃなくて愚者ちゃんにまた会いたいのじゃないかしら……」

 愛流華奈は唇を尖らせながら、そう独り言を言ったが、その瞳にはすこし哀しげな色を浮かばせているのだった。



「うーん。愚者ちゃん、速いよ……速すぎるよ……もっと飛ぶスピード落としてくれったら!」

 清陀は気が付くと空を飛んでいた。清陀の目の前にはパッチリとした瞳を崩して嬉しそうに笑う愚者ちゃんの顔があった。清陀は愚者ちゃんと抱き合ったまま空を飛んでいるのだが、愚者ちゃんの飛行速度があまりにも速すぎて清陀は気分が悪く、吐きそうになっているのだった。


「ええーアタシの飛ぶスピードは、アタシのセイダへの愛の表現だよお! アタシのセイダへの愛はまだまだこんなんじゃないよお! もっともっと速く飛ばないとアタシの愛が表現しきれないよおー」

 愚者ちゃんは嬉しそうに笑うと、

「セイダをもっともっと自由にしてやれって、アルカナちゃんが言ったんだ。だからアタシがもっと自由にしてあげる。よーし、今日は宇宙にまで飛んでくぞーっ!」

 愚者ちゃんの足の裏から炎がロケット噴射のようにものすごい勢いで噴き出される。


「うわああああああーっ! 助けてーっ!」

 清陀は泣きながら喚くが、愚者ちゃんの身体はどんどんどんどん上昇し、雲を突き抜け、大気圏をも突き抜け、宇宙空間へと到達した。


「うわあ、息が出来ないよっ、苦しい、苦しい……」

 宇宙空間で清陀が息が吸えずに苦しんでいると、真っ赤なローブを着た愛流華奈が目の前に現れ、

「……やっぱりあなたを自由にしてあげることは私には無理なのでしょうか……私、あなたの人生を変えてあげたいのに……運が悪いあなたの人生を、幸せなバラ色の人生に塗り替えてあげたいのに……なのに、あなたはそんなにも苦しそうにしている……」

と言って両手で顔を覆ってシクシクと泣き始めた。


「そんな……そんなことないさ……君の占いは素晴らしいよ……きっと僕の人生を変えられるさ……」

 清陀は泣いている愛流華奈を慰めようとする。

「……でもやっぱり苦しい……息が出来ない……愚者ちゃん、なんてことしてくれるんだよ……このままじゃ人生が変わる前に窒息して死んじゃうじゃないかああああっ……それに愛流華奈ちゃん、君はどうして宇宙で息が出来ているんだいいいいっ……」

と苦しみ悶えながら叫んだところで、

「ハッ」

と目が覚めた。


「な、なんだ、夢かあ……」

 清陀は身体中に汗をかいていた。部屋の窓から陽の光が優しく射しこんでいた。


「もう朝かあ。学校に行く準備しなきゃだ……」

 部屋の時計を見ると、もう朝の八時近かった。


「いっけね! 遅刻しちゃうよっ!」

 清陀は慌ててベッドから跳び上がると、大急ぎで制服を着こみ、

「朝ごはん一口でも食べていきなさい」

という母親の言葉も無視して自宅を飛び出した。


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